人里離れた山の中にぽつんと不安そうな表情を浮かべていた真っ白のおじいちゃん犬がいました。その名はえだまめ。13歳のチワワで、飼い主が山の中に棄てたようです。

猪や野生動物が生息する場所で、しかも翌日は大雨予想。大好きだったであろう飼い主が去っていく姿をえだまめはどんな気持ちで見ていたのでしょうか。その気持ちを思うと胸が苦しくなるだけでなく、強い憤りを感じます。

複数の持病があることがえだまめを棄てた理由?

えだまめは心ある人によって助けだされ、ワンコの保護・譲渡活動を通して「殺処分ゼロ」の実現を目指す団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)に保護されることになりました。

えだまめを保護したピースワンコのスタッフはえだまめにメディカルチェックを実施。お尻には腫瘍(肛門周囲腫瘍)があり、甲状腺機能低下症という疾患も患っていました。飼い主がえだまめを棄てた理由は、これらの病気が理由だったのかもしれません。

ピースワンコでは、えだまめに適切な治療を行い世話をすることにしましたが、同団体の施設にたまたま訪れた夫婦がいました。Sさん夫婦です。

「えだまめを引き取らせてもらえませんか」

Sさん夫婦は、過去に2匹のワンコを看取った経験があり、そのうちの1匹は重篤な持病でしたが、治療と世話を続け12歳で虹の橋を渡るまで大事なパートナーとして一緒に過ごしたそうです。Sさん夫婦はすでにシニア世代に突入。これまでワンコとずっと一緒に生活してきているため、ワンコがいない生活は考えられません。しかし、子犬から飼うとなると、自分たちの年齢的なリスクもあり踏み切れずにいたようです。

ある日、立ち寄ったピースワンコの施設でえだまめと対面。スタッフは前述の持病を伝えた上で、「治療を継続していかないといけない状況です」とSさん夫婦に話しました。するとSさん夫婦は「我が家で引き取らせていただけませんか」と一言。その場で躊躇なく決断しました。

噛み癖は残りつつもSさん夫婦に心を寄せるように

持病があるシニア犬を引き取ることは、並大抵の覚悟ではありません。それでもSさん夫婦は「運命を感じる」と迎え入れてくれました。

えだまめは穏やかで甘えん坊の性格ですが、噛み癖がありました。過去の境遇のためかもしれません。えだまめを迎え入れたSさん夫婦は毎日容赦なく噛まれたそうです。しかし、決して諦めずに朝晩2回散歩に連れていき、エサを与え、噛まれても怒らず抱き上げて静かに触ってあげました。

Sさん夫婦の対応に、えだまめは少しずつ心を寄せるようになり、やがてSさんが就寝する際には足元に潜り込んで布団に入ってくるようになりました。

今なおときどき噛まれることもあるといいますが、当初より回数は減りました。どうしても噛んでしまうときは突発的な反応のようで、噛みついた後ハッと我に返るような表情をするそうです。

シニア世代がシニア犬と暮らすメリット

山の中でひとりぼっちでいたえだまめは、こんなに優しいSさん夫妻のもとで晩年の犬生を過ごすことになりました。Sさんはこんな話もしてくれました。

「私たちは微力ですが、温もりの中で最期まで暮らせるワンコが増えればいいなと思います。若い頃から犬を飼っていますが、以前は働き盛りで落ち着かず、一方的にこちらが癒してもらうだけでした。自分たちが年を重ねた今、犬との向き合い方が変わってきました。シニア世代になってシニア犬と暮らすことは、若い頃より丁寧に犬と向き合えるし生活のハリになります。犬との相性はありますが、シニア犬を飼うことで1頭でも家犬として犬生を送ることができれば私たちでも役に立てる。介護も身構えるものではなくて、人として自然なことですよ。自分もこうなっていくのだな、って思わされます」

シニア世代のSさん夫婦がシニア犬のえだまめの世話をしながら晩年を過ごす。胸の奥が熱くなるお話でした。

(まいどなニュース特約・松田 義人)