全国の書店員が最も売りたい本を投票で選ぶ「2024年本屋大賞」の大賞に輝いた青春小説「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)。作品の舞台となった大津市では、ゆかりの地を訪ねる「聖地巡礼」を楽しむ人が増えるなど、現実と作品世界が絡み合い、盛り上がりを見せている。

 大賞受賞作は、閉店を控えた西武大津店を題材に、真っすぐな性格で我が道を突き進む成瀬あかりの中高生時代を描いた作品。続編「成瀬は信じた道をいく」では、成瀬の大学受験や大学生活が生き生きとつづられている。

 個性あふれる成瀬自身の魅力もさることながら、西武大津店以外に実在のスポットがたくさん登場することも本作の醍醐味(だいごみ)だ。

 作品の世界観を実際に楽しんでもらおうと、滋賀県は発行元の新潮社と連携し、4月1日から6月30日まで「この春を成瀬に捧(ささ)げるスタンプラリー」と銘打ったイベントを行っている。

 スマホでQRコードを読み取るデジタルスタンプラリーは13カ所が対象。成瀬の自宅最寄りのJR膳所駅、成瀬の友人が好きなパン屋「よりみちぱん」、かるたの聖地の近江神宮、成瀬が「何度乗っても飽きない」と語る大型観光船ミシガンの発着する大津港などだ。

 すべて達成すれば成瀬らが描かれたクリアファイルがもらえる。当初はファイルを200枚用意していたが、「想像以上に参加者が多くて驚いた」(県市町振興課)。急きょ800枚に増やし、今後さらなる増加を検討をしている。

 スタンプラリーのスポットのうち、2作目の一編「やめたいクレーマー」で成瀬のバイト先のモデルとなった「フレンドマート大津テラス店」(大津市打出浜)では、独自企画も実施中だ。

 店に以前から設置され、物語の中でも重要な役割を果たす「お客様のお声」の掲示板にちなみ、成瀬にメッセージを届けようと「読者様のお声」コーナーを設けた。

 本屋大賞受賞の祝福など、メッセージは4月中旬時点で約160に上り、一部を張り出している。

 「成瀬会いにきたよ!!成瀬のおかげで小説と大津が好きになりました。ありがとう成瀬!!」

 「成瀬から多くを学びました。久しぶりに読書の楽しさを味わいました」

 「姪のすすめでよみ始めすっかりファンになりました。たまたま転勤でこの聖地大津に住めて良かったです!」

 3作目や映画化を希望する声に加え、東京や香川、宇都宮など県外から訪れる人も目立つ。著者で大津市在住の宮島未奈さん(40)も「来ました!!」とメッセージを書いた。

 同店ではバイト姿の成瀬の巨大パネルを飾っており、従業員と同じ制服も無料で貸し出している。

 宮島さんも実際に借りたという。「わたしも着てはみたもののスカートなど準備が不十分だったので出直します」と、自身のX(旧ツイッター)に写真付きで投稿。「これは面白い企画ですね!そしてちゃんと参加する宮島さん最高」とのコメントも付いている。

 フレンドマート大津テラス店が2作目のモデルとなったことについて、渡邉健店長は「社内でもだいぶ話題となった。『お客様のお声』の描写など、宮島さんはよく観察していらっしゃるなあという印象です」と話す。

 本屋大賞を受賞した4月10日以降はスタンプラリーなどを目的に来店する人が一層増えたという。渡邉店長は「リアルな店舗を見て頂き、作品の世界を味わっていただきたい。他の場所とともに、まち全体が盛り上がっていけば」と期待を込めた。

(まいどなニュース/京都新聞・堤 冬樹)