発電所を持つのは電力会社だけだと思っていないだろうか。さにあらず。全国有数の多雨地域の徳島県南部では、県が複数の水力発電所を所有し、売電収入増を狙って熱心にそろばんをはじいている。脱炭素社会実現に向けた経済社会システムの変革「グリーントランスフォーメーション(GX)」が意識され、再生可能エネルギーの導入企業も増える中、どうせ売るなら1円でも高く売りたいところ。そこで県が繰り出す秘策とは――。【植松晃一】

 ◇自治体の水力発電所としては国内最大。その売電先は?

 険しい県南部の四国山地をうねるように流れる那賀川。川沿いにある日野谷発電所(那賀町)は、揚水式を除くと自治体が持つ水力発電所としては国内最大の出力6万2000キロワットを誇る。徳島県企業局は、同発電所など2河川で計4カ所の水力発電所を運営し、最大出力は計8万7500キロワットに達する。過去30年間の平均では、徳島市(人口約24万5000人)の電力需要に匹敵する年間約3億3000万キロワット時の電力を生み出してきた。

 ただ、県企業局から直接電力を買っているという人は周囲にいないだろう。それもそのはず。生み出された電力は、四国電力(高松市)が全量購入してきたからだ。つまり、県企業局は「卸売り」までなのだ。そして2024年度は、四電と結んだ15年間の売電契約の最終年度に当たる。契約では県の収入のうち8割が発電量に関係ない定額制で、残り2割が発電量に応じて増減する従量制だという。例年並みの発電量となれば単価は1キロワット時当たり平均約10円。ただ、この契約は今年度限りなので、来年4月以降どうするかをそろそろ検討する時期なのだ。

 ◇電力「バラ売り」の検討も

 県企業局はこれまで、四電と交渉のうえ、入札を行わない随意契約を更新してきたが、6月の県議会本会議の代表質問では、担当者が公募型プロポーザル方式を検討していると答弁した。それだけではない。現在は4発電所の電力は四電に一括売電しているが、地元の新電力が参入しやすくする「地域限定枠」を創設して一部「バラ売り」することも視野に検討するという。

 県企業局が売電先の選定方法を見直すのは、「環境価値」を持つ再エネを活用して売電収入を増やしたいからだ。24年度予算では、平均的な年間売電量をベースに35億7705万円の売電収入を計上。「独立採算」で運営されている県企業局は黒字経営で、22年度決算では約162億円の内部留保を計上した。

 足元の経営状況は良好だが、4発電所のうち那賀川水系の3カ所は運転開始が1952〜60年で、既に60年以上経過していて老朽化も進む。県がそろばんをはじく背景には、将来の設備更新費用を確保する狙いもある。県としては、県の発電所が生み出す環境価値がどのくらいあるのかを検討してもらい、買い取り単価を上げて価値を上乗せしてほしいという思惑があるようだ。

 ◇渇水頻発の那賀川がボトルネックに?

 事業者が契約案を提案するに当たっては、定額制と従量制の割合もポイントとなりそうだ。というのも、県の三つの発電所がある那賀川は、流域が急峻(きゅうしゅん)であることから渇水となりやすい地形だからだ。

 国土交通省那賀川河川事務所によると、1995年〜2023年の29年間で、取水制限といった渇水調整がなかったのは10年間だけ。3年間のうち2年は渇水に悩まされてきた計算になる。

 このため、厳しい取水制限が実施される渇水となると、発電量が伸び悩む恐れもある。この場合、電力を購入する事業者にすれば、従量制の割合が高いと安心だが、定額制の割合が高い契約内容だと、経営のマイナス要因となる。逆に、県企業局は定額制の割合が高いと、得られる売電収入の見通しが立てやすくなる。従量制の割合が高いと、予算計上した売電収入を得るのが難しくなりかねない。

 ◇愛媛、高知両県でも同様の動き

 四国4県では、徳島県企業局に加え、高知県公営企業局が物部川の3カ所で水力発電所を持ち、最大出力は計3万9200キロワットに達する。愛媛県公営企業管理局も、銅山川など9カ所(最大出力計6万6936キロワット)で水力発電事業を営む。高知県は3カ所全て、愛媛県もFIT(固定価格買い取り制度)の認定を受けた2カ所(同1万236キロワット)を除く7カ所(同5万6700キロワット)は、四電に売電する長期の随意契約を交わしてきたが、いずれも24年度が最終年度となっている。

 来年度以降の売電契約については、徳島県以外でも、高知県が一般競争入札かプロポーザル方式を導入する可能性を県議会に報告しているという。四国の公営電気事業の再エネを巡っては、四電だけでなく新電力を含めた事業者の動きが注目される。

 ◇旺盛な「再エネ」電力需要

 経済界などでは、100%再生可能エネルギー由来の電力調達を宣言する国際的な企業連合「RE100」(本部・英国)に加盟する企業が増加中だ。日本でもリコーや大塚ホールディングス、日本生命といった企業が参加している。各企業は太陽光発電などで自ら再エネを生み出す他、再エネ由来の電力を購入する。

 また、温室効果ガスの歳出削減を目指す自治体では、住民らによる電気自動車(EV)の導入を支援する際、住民らが再エネ100%の電力メニューを契約していれば、補助を増額するといった施策を実施する例もある。

 こうした再エネに対する需要を踏まえ、四国電力は1キロワット時当たり1円10銭の追加料金で、再エネ100%由来の電力を供給するサービスを提供している。他の大手電力各社も再エネ100%の料金メニューを用意し、条例などで定められた温室効果ガスの排出量削減を進めたい事業者や、環境に配慮した事業活動を対外的にPRしたい事業者の要望に応えている。