「食べて供養してあげるべきだ」 田畑荒らす鳥獣狩るジビエ料理人

毎日新聞6/16(月)6:45

「食べて供養してあげるべきだ」 田畑荒らす鳥獣狩るジビエ料理人

日置季道さん(左)と妻の美咲さん=津市美里町穴倉の古民家カフェ山乃屋で2025年5月10日午後4時56分、長谷山寧音撮影

 津市美里町の山間部に小さな古民家カフェがある。妻の夢をかなえるだけでなく、地域の課題解決に向けて理解を広げるため、一念発起して立ち上げた自慢の店だ。

 市の中心部から車で約1時間のカフェ兼ジビエ(野生鳥獣肉)料理専門店「山乃屋」。日置季道(としみち)さん(48)が妻の美咲さんとともに2019年に開いた。古民家を改装した店の入り口や内部には、聴覚障害のある美咲さんが一人でも対応できるよう呼び出しを視覚で知らせるボタンがある。

 店の経営は美咲さんに任せ、日置さんは観光バスの運転手を務めながら野生の鳥獣を駆除している。法令で定められた施設を備えていないため、自ら狩った鳥獣を料理として提供することはできない。だが「命に敬意を払い、感謝しなければいけない。ジビエが広がり、動物に恩返しができたら」との思いで取り組んでいる。

 津市出身の日置さんは、なぜ狩猟を始めたのか。新聞販売店に勤めていた約10年前、近隣の農家からの「田んぼが鹿やイノシシに荒らされて困っている。でも、駆除にかけるお金はない」と相談を持ちかけられた。高齢化が進む中、鳥獣を駆除して田畑を維持する資金がなく、農家をやめざるを得ないのだという。

 「お米を作るという選択肢を捨てるのはもったいない。地元を自分たちで守りたい」。使命感に駆られた日置さんは新聞販売店に退職願を出し、駆除を手がけることに決めた。

 早速、狩猟免許を取得。猟銃を手に野山へ出た。先輩に獲物の仕留め方や解体方法などを教わりながら有害な鳥獣を駆除した。嫌がらせを受けたこともあったが、「駆除しないと米を守れない」という信念は揺るがなかった。

 狩猟を通じて知ったのは、駆除した鳥獣のほとんどが活用されずに処分されていること。「無駄に命が捨てられている」と感じ、「食べて供養してあげるべきだ」とジビエへの興味を深めていった。

 日置さんによると、最近の狩猟は、わなが主流。だが、わなでは「偶然」捕らえてしまう可能性がある。だから、あくまで田畑を荒らす鳥獣だけを狩る。それでも指を引き金に掛ける時は手が震え、胸が締め付けられる。

 現在、狩猟をする人は高齢化が進み、人数も減っている。三重県によると、野生鳥獣による農林水産被害は23年度で約3億6200万円。11年度の約8億円から減少傾向にあるが、駆除する人が減れば、また増える可能性がある。

 日置さんは「自分たちの土地のために常に『なにかできやんかな』と考えている。もっと若手の仲間も増やしたい」と話している。【長谷山寧音】

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