◇第72回全日本学生剣道選手権(30日、東京・武蔵野の森総合スポーツプラザ)

 大一番を終え、面を外す前から既に泣いているのが分かるほどだった。「誰よりも練習してきたつもりだった。報われました」。法大・矢野将利選手は初めて「大学日本一」の座を射止め、感無量の表情を見せた。

 関東王者の筑波大・平尾尚武選手が決勝に立ちはだかった。「ラスト、出し切るだけ」。開始直後から持ち味の攻撃的な剣道で果敢に攻め立てた。

 制限時間5分のうち1分半が過ぎたあたりで「先に仕掛ける」と決めた。至近距離で竹刀をぶつけ合いながら押し合い、離れた瞬間を狙うと、甲高い声とともにきれいにメンが決まった。平尾選手が「術中にはまってしまった」と悔しがるほど見事な積極策だった。

 福岡県出身。父と2人の姉が剣道経験者で、道場についていくうちに「自分もやってみたい」と5歳から竹刀を握った。九州の強豪・福岡大大濠高を経て、関東の名門・法大の門をたたいた。転機は前年の大会だ。3年生ながら3位に食い込み、「自分の剣道を確立するきっかけになった」と自信を得た。先に仕掛ける「攻撃的な剣道」に活路を見いだした。

 「うれしいのはもちろんあるけど、法大に恩返しができたのかなと思います」。涙が止まるとそう言って実感を込めた。近年は筑波大、国士舘大、鹿屋体大が優勝を分け合ってきただけに、価値ある優勝だった。【牧野大輔】