北朝鮮から韓国に逃れた20代の女性が27日、ソウル市内で記者会見した。「梨泰院(イテウォン)クラス」などの韓国ドラマをこっそり見て「気持ちが揺さぶられた」と振り返り、脱北を決意する理由の一つになったと明かした。見たことのある韓国ドラマを挙げれば「きりがない」とも語った。

 会見には女性の50代の母親も同席した。女性は2023年10月、母親らと木造船に乗って脱北した。「北朝鮮を船で出た時、とても自由な気持ちになった。でも途中で(北朝鮮の)船に追われ、『もう死んだ』と思った」。何とか逃れ、韓国北東部・江原道(カンウォンド)沖合の海上で漂っているところを韓国の軍と警察に保護された。

 会見では、韓国ドラマに関する質問が相次いだ。女性は「(北朝鮮の)若者たちは韓国式が大好きです。韓国ドラマを見て、『私たちはなぜこのように生きなければならないのか』という反感が生じています」と証言した。

 ◇韓国文化「すごい速度で広がっている」

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権は韓国文化の浸透に危機感を抱き、20年に「反動思想文化排撃法」を導入。韓国統一省によると、22年には韓国ドラマを見た人が同法違反で死刑になった。

 だが女性は、韓国文化が「すごい速度で広がっている」と話した。「私は中国で買ったテレビを使い、チャンネルを調整して、韓国の周波数に合わせ、テレビ放送でドラマを見ていた」

 「冬のソナタ」がきっかけで、韓国ドラマに魅了された。見たことのあるドラマを聞かれると「相続者たち」「太陽の末裔」「キム秘書はいったい、なぜ?」「紳士とお嬢さん」「梨泰院クラス」などを矢継ぎ早に挙げ、「見たドラマを挙げればきりがない」と話した。

 韓国公共放送KBSの人気長寿番組「6時、私の故郷」にも大きな影響を受けた。韓国各地の農村などをリポーターが訪ねて地域住民と交流する番組を見て「韓国人は私たちを受け入れてくれる」と感じたという。【ソウル福岡静哉】