将来の不安を感じさせる「お金」の問題。そんなお金に人生を振り回されないためには、「知恵が必要」だと経済コラムニストの大江英樹さんはいいます。そこで、大手証券会社で長年にわたり個人の資産運用業務に携わってきた大江さんの著書『いつからでも始められる 一生お金で困らない人生の過ごしかた』(すばる舎)から、将来の不安をなくせるお金に関する知恵と備えるべき年代別ポイントを連載形式でお届けします。
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「欲」と「恐怖」
人間がお金に関して行動を起こす動機はさまざまですが、その中で最も強い動機が「欲」と「恐怖」です。
人は誰もこの二つの動機に心を揺さぶられ、誤った判断をしがちになります。
「欲」がお金を動かす動機になるのは誰でもわかるでしょう。
欲に駆られて投資した結果、失敗して損をするのは多くの人が見聞きしたことがあるでしょうし、中には自分自身がそういう失敗をしたという人もいるかもしれません。
では、「恐怖」が動機でお金を動かすというのは一体どういうことなのでしょうか。
私はその典型的な事例が「保険」に入ることだと思っています。
人は病気や怪我、自分の生命にかかわることについては、誰しも何がしかの不安を持っています。
さらにそうした不幸な出来事を理由として経済的に困窮するという恐怖もあります。
むしろ「欲」よりも「恐怖」に駆られて行動する動機のほうが、そのパワーは強いかもしれません。
もちろん私は保険不要論者ではありません。
保険というのは人間社会で考え出された非常に優れた叡智であり、保険が存在するおかげで多くの人は安心して生活できたり、経済活動ができるのは間違いありません。
保険を正しく理解し、適切に利用する分には全く問題ないのですが、世の中の多くの人を見ていると、どうもそうではないような気がしてならないのです。
実際、日本人は世界的に見ても保険の加入率、払っている保険料の金額では突出しています。
では、一体何が問題で、「お金に関してやってはいけないこと」に「保険に入りすぎてはいけない」という項目が来るのか、ということからお話をしていきましょう。
確率と金額の多寡がポイント
そもそも保険とは一体何のために入る必要があるのでしょうか?
それは将来、何か不幸な出来事が起きた時、経済的に困らないような保障を得られるようにするのが最大の目的です。
この"経済的に困らない"ということがとても大事なのです。
多くの人が保険に求めているのは「安心感」ですが、それはあくまでも経済的な安心感のはずなのに、いつの間にか保険を「お守り」のように勘違いしてしまっている面も感じられます。
言うまでもなく、保険に入ったからといって病気にならないわけでも死なないわけでもありません。
あくまでもそういう不幸な事態になった時、経済的に困らないようにするのが目的です。
したがって、仮に何かあったとしても、自分のお金で賄えれば保険に入る必要はないのです。
起きるか起きないかわからないもので、仮に起きたとしても自分の蓄えで賄えるぐらいの金額で想定できるのであれば、保険に入る必要はありません。
保険料を払う代わりに、そのお金を貯金していれば良いのです。
貯金の良いところは、貯めておきさえすれば使い途は後からいくらでも決められることにあります。
ところが多くの人が100%の安全・安心を求めようとする結果、ありとあらゆる保険に入ろうとします。
話は少しそれますが、今回のコロナ禍においても人々は100%の安全を求めているように見えます。
でも正直言うと、こういう目に見えないウイルスを介した感染症においては100%安全ということはあり得ません。
検査で陰性と判断されても病院や保健所からの帰りの電車やバスでつり革につかまって感染するかもしれませんし、外に出るのを極力控えても近所のスーパーへ買い物には行くでしょう。
自分では気付かず感染している人が咳をして飛んだ飛沫からウイルスが付着した野菜を手に取って買っているかもしれないのです。
でもまあそういう可能性は確率的に極めて低いでしょう。
そう、何事も確率の問題ですから100%安全というのはあり得ないのです。
したがって、保険に入るかどうかを決めるポイントは、自分に対してそういう不幸な出来事が起こる確率、そしてそれが起きてしまった場合に自分で経済的に対処できるかどうか、という金額の多寡によって入るべきかどうかを決めれば良いのです。
具体的な例を考えてみよう
例えば、起きる確率は非常に少ないけれど、もし起きてしまったらとても自分の蓄えでは賄えないことの代表は、車を運転する場合の死亡事故でしょう。
これは万が一にでも起きてしまった時、何億円にもなり得る保障は、とても自分で出せるはずがありませんから、運転する人なら絶対に入るべきです。
ところが同じ自動車保険でも車両保険の場合は入らない人もいます。
その理由は保険料が高いからです。
なぜ高いかというと、人身事故のように滅多に起きないということではなく、自分で車庫入れする時にこすったり、脱輪してボディをへこませたりするようなことは割とよく起きるからです。
でもそんなことだってしょっちゅう起きるわけではありませんし、仮に起きてもせいぜい数万円ぐらいの修理代で済むなら自分で払えない金額ではありません。
だったら高い保険料を払わなくても良いのでは?という判断をする人がいるから入らない人も多いのです。
この判断は非常に合理的ですが、自分の車に対しては冷静に判断できても、自分の身体や健康になるとそうならなくなるのは、まさに「恐怖」がもたらす効果なのでしょう。

165-c.jpg前半3章でお金に対する考え方や知識を、後半3章で実際のお金をどう扱うかの具体的な年代別戦略モデルを資産運用のプロが徹底解説しています

大江英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表。CFP(日本FP協会認定)、1級ファイナンシャルプラニング技能士。大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金法が施行される前から確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。主な著書に『投資賢者の心理学』(日本経済新聞出版)『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などある。