将来の不安を感じさせる「お金」の問題。そんなお金に人生を振り回されないためには、「知恵が必要」だと経済コラムニストの大江英樹さんはいいます。そこで、大手証券会社で長年にわたり個人の資産運用業務に携わってきた大江さんの著書『いつからでも始められる 一生お金で困らない人生の過ごしかた』(すばる舎)から、将来の不安をなくせるお金に関する知恵と備えるべき年代別ポイントを連載形式でお届けします。
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自然な感情で投資をすれば失敗する
前節で「欲と恐怖」というお話をしました。

特に保険は「恐怖」が動機となって加入するケースが多いので、冷静に考えることが大事だと言いましたが、この「欲と恐怖」は、投資においても正常な判断を邪魔します。
というよりも実は、普通の人間が心の赴くままに投資をすれば、ほぼ100%失敗します。
「え!そんなことが!」と思うかもしれませんが、これは事実だし、投資の経験のある人なら誰でもうなずける話でしょう。
近年、注目されつつある「行動経済学」においても、この傾向は実験で、ある程度実証されています。
人間は本来「損失回避的」で「リスクを取りたくない傾向が強い」ものなのです。
ところが前述したように、リスクを取らない限り、リターンを得ることはできません。
これは永遠の真実です。
世の中にうまい話はないからです。
もちろん損をしたくないのは誰でも当たり前です。
問題は損があまりにも嫌いだから間違った判断をしてしまいがちになるということなのです。
人は何よりも損をすることが嫌いなので、「儲からなくてもいいから損だけはしたくない」という傾向になりがちです。
これが行動経済学で言う「損失回避的」ということなのです。
では、損失回避がいかに正常な判断を妨げるのかを実例を挙げてお話しましょう。
例えば、株式を買った後にその株価が上がったらどんな心理状態になるでしょう。
もちろんうれしいですね。
でも単にうれしいだけではなく、もう少し複雑な心理になります。
それは「もっと上がるかもしれない」という期待感と、「上がって良かったけど、今売っておかなければ下がってしまうかもしれない」という不安感です。
何しろ先のことは誰もわからないのですから、こういう矛盾する二つの気持ちが出てくるのは当然です。
人は「損失回避的」なので、多くの場合、「期待感」よりも「不安感」のほうが大きくなり、とりあえずは一旦売って利益を確保しておこうという行動を取りがちになります。
では逆に下がった場合はどうなるでしょう。
当然、気分は悪いですね。
でも人間は損をするのが何よりも嫌いなので、普通は下がったところで売ることはしません。
いずれ上がるだろうという根拠のない願望で持ち続けます。
本来、その企業の業績が悪化したり、見通しが悪くなったりした場合は、すぐに売ったほうが良いのでしょうが、なかなかそれができません。
やがてその後、さらに下げが加速すると、今度は「このままいくと潰れるかもしれない!」という恐怖感で慌てて売るという行動を取りがちです。
でも下げが大きくなる場面というのは往々にして下げる最終局面なので、そういうところで売ると、大体その後は上がり始めるパターンが多いのです。
結果、どういうことになるかというと、上がった時は少ししか儲からずに利益を確定し、下がった時は大きく損をしてしまいがちになります。
よく株は「十勝一敗でも儲からない」と言われますが、その理由はこの「損失回避」の心理があるからなのです。
したがって、投資に関して知識の有無だけではなく、人間の心理的傾向として投資はそれほど簡単なものではないと考えておいたほうが良いと思いますし、勧められて安易にお金をつぎ込まないほうが良いでしょう。


165-c.jpg前半3章でお金に対する考え方や知識を、後半3章で実際のお金をどう扱うかの具体的な年代別戦略モデルを資産運用のプロが徹底解説しています

大江英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表。CFP(日本FP協会認定)、1級ファイナンシャルプラニング技能士。大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金法が施行される前から確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。主な著書に『投資賢者の心理学』(日本経済新聞出版)『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などある。