<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男
年齢:59
プロフィール:昔は30分ぐらいは我慢できた待ち合わせも、最近は5分と持たずにスマホに頼ってしまいます。

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Aくん(58)とは今でもたまに食事などをする学生時代からの友人です。
先日久々に待ち合わせをしたのですが、すっかり店で会う約束のつもりだったのに、向こうは駅で待っていたらしく、スマホで連絡が来ました。
すでに店にいることを伝えて、Aくんがやってきて事なきを得ました。
「勘違いだ! あの時と同じ!」
Aくんの一言で、40年近く前の記憶が蘇りました。
大学3年のときのことです。
Aくんと映画を見る約束をして、2人分の前売り券を持って駅の西口で待ち合わせました。
ところが待てど暮らせどAくんが現れません。
「おかしいな、まさかあいつ...」この駅には東口もあります。
勘違いしてそちらにいるかも知れないと思いました。
東西を行き来できる自由通路は、南北に一つずつあります。
どちらを行っても結構な大回りなのですが、その頃はまだ若かったので南側の通路をダッシュで駆け抜けました。
映画の時間までそう余裕はないので、息を切らして駆けつけましたが...A君はいません。
「...ハア、ハア...こっちにもいないのか...あれ? おーい!」
そこにたまたまいたのは別の友人Bくんでした。
「なあ、A、見なかった?」
「A? いたよ。ついさっきまで」
「え! どこ行った?」
「映画の待ち合わせだって言うからさ、だったら西口じゃねえの? って言ったら慌てて走って行ったけど...」
すれ違いでした。
自由通路では見かけなかったので、私と違う北側の通路を行ったのでしょう。
映画の時間はいよいよ迫っているので、さっき以上の猛ダッシュで今度は北側の通路を西口へと走りました。
西口に戻ってみましたが、Aくんの姿はありませんでした。
「どういうことだ? まさか、今度は南側の通路で戻ったとか?」
しばし逡巡しました。
もう一度東口に戻って、そこに彼がいたとしても、今度は映画の時間に間に合いそうにありません。
「ええい! ちゃんと待ってないあいつが悪い!」
もう一人でも映画を見てしまおうと決心しました。
時間はギリギリで、やはりダッシュで今度は映画館に走りました。
息せき切って走っていくと、映画館の前に見慣れた姿が見えてきました。
入場口の脇で時計を見ながら立っているのはまさしくAくんです。
「やあ! やっと会えた。よかったあ!」
彼がホッとした表情で言ってきました。
「ハア、ハア...いや、なに...言ってんだ、よ...なんで、こんなとこに...」
「いやあ、西口に行ってもいないからもう映画館に行ったのかと思って...待ち合わせ、西口だったっけ? 俺バイト明けだから東でって言ったと思ったんだけど...」
「...え?」
そう言えば、そんな話をしていました。
いつもの癖で西口と思い込んでいたのは私の方だったようです。
お互い汗びっしょりになった顔を見合わせて「...初めから、映画館の前ってしとけばよかった!」とハモってしまい、吹き出してしまいました。
汗まみれの男二人が笑いながら映画館に入っていくのは、なかなかに奇異な光景だったと思います。
「あの頃、携帯さえあればなあ」
「そうそう電話一本で事足りたのにな、今日みたいに」
昭和あるあるなエピソードを皮切りに、思い出話に花が咲きました。