健康のために歩くことの効果は科学的に証明されており、肉体だけでなく心と脳にも良い影響をもたらします。ストレスが解消され、脳の活性化や認知症のリスク低減にもつながるとされています。歩くことが健康維持に欠かせない理由と実践する方法を呼吸器内科のスペシャリストの大谷先生にお伺いしました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年4月号に掲載の情報です。

1日1万歩があらゆる病気を防ぎます
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13種類のがんのリスクを下げる
国立がん研究センターの調査によると、よく歩いている人の方ががんの罹患率が低いことが分かっています。欧米の144万人を対象にした調査でも、13のがんのリスクが低下。歩くことにより高血糖が改善されると炎症物質「サイトカイン」が減少し、がんなどの疾患に関係する「慢性炎症」を防げることなどが、その理由とされます。
2404_P014-015_01.jpg脂肪を落とし、肥満を解消
ウォーキングを含む有酸素運動は、体内の糖質や内臓脂肪を燃やし、エネルギーに変えます。また、心臓や肝臓、骨格筋(筋肉)など本来脂肪がつかない部位につき、心筋梗塞や心不全の原因にもなる「異所性脂肪(通称"エイリアン脂肪")」や、気付かぬうちに脂肪が増えて筋肉が減る「サルコペニア肥満」も、歩くことで予防できます。
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血圧を下げる
「1kgやせると血圧が1mmHg下がる」「4〜5kgやせると降圧効果がある」との報告があります。肥満が原因で血圧が高い人は、まず歩いて減量を。降圧薬を減らせる可能性もあります。歩くことは、日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン』にも記載されている安全な運動療法です。
2404_P014-015_06.jpg肺炎のリスクが低下
日本人の死因第4位の肺炎は、軽い運動で免疫力を上げることが予防につながります。北海道大学の調査では、1日1時間以上歩く人は肺炎の死亡リスクが低下。イギリスの報告でも軽い運動習慣がある人は肺炎リスクが31%低くなっています。また、呼吸筋が鍛えられると、誤嚥性肺炎の予防にも。

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心筋梗塞と脳卒中を防ぐ
心筋梗塞や脳卒中の主な原因は、動脈の血管が硬くなって血流が悪くなる「動脈硬化」。予防には食事の見直しなどが欠かせませんが、加えて大谷先生が推奨するのがウォーキングです。歩くことで肥満が解消されれば、血圧が下がり、心筋梗塞や脳卒中のリスクを減らせる可能性が高くなります。
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感染症にかかりにくい
軽い運動を行うと、免疫力を高めるNK細胞が活性化します。新型コロナウイルスに関するアメリカの調査では、週10分以内の運動量の人は、週11〜149分および週150分以上の運動量の人に比べて入院・死亡リスクが高いという結果に。同様に、肺炎やインフルエンザ、風邪なども罹患や重症化の予防につながります。
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糖尿病を改善する
高齢女性約5000人を対象としたアメリカの調査では、1日の歩数が2000歩増えると、糖尿病の発症リスクが12%低下することが判明。少し汗をかく速度で歩くと14%低下と、より効果があることが分かりました。糖尿病の改善には、食事の他、運動も重要なのです。

「ひざ痛」の心配は不要です
「ひざ痛が悪化しそうで歩くのが怖い」という人もいるでしょう。ですが、世界的に有名な医学雑誌には、「ウォーキングと変形性膝関節症の因果関係は認められない」という調査結果が掲載されています。「無理のない範囲で、毎日少しずつでもいいので歩いてみましょう」(大谷先生)。
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構成・取材・文/岡田知子(BLOOM) 撮影/木下大造 モデル/永谷佳奈(オフィス美江) イラスト/原田マサミ



<教えてくれた人>

池袋大谷クリニック 院長
大谷義夫(おおたに・よしお)先生

群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、アメリカ・ミシガン大学留学などを経て、2009年より現職。国内屈指の呼吸器内科のスペシャリストとして、メディアなどで情報を発信している。著書も多数。