本社を置く世界貿易センタービル(東京・浜松町)

オリックス<8591>は2024年3月に、個人向けローンや信用保証事業などを手がける子会社のオリックス・クレジット(東京都港区)を、NTTドコモ(東京都千代田区)に譲渡した。

オリックス・クレジットの設立は1979年。これまで45年間、親子としてともに事業を発展させてきた企業の経営権を手放すわけだが、関係が全くなくなるわけではない。

NTTドコモに売却する株式は66%で、オリックスは残りの34%の株式を引き続き保有し、オリックス・クレジットを、オリックスとNTTドコモの両社で共同運営するというのだ。

そこには、どのような戦略があるのだろうか。

融資事業を拡大し新サービスを開発

オリックス・クレジットが属する個人向けの金融サービス市場は、少子高齢化などによる資金ニーズの多様化や、IT、デジタル活用に強みを持つ異業種企業の参入などがあり、日々変化しているという。

そうした中、オリックス・クレジットは、キャッシュレス化に対応したスマートフォン向けのローン「ORIX MONEY」や、250を超える金融機関と提携し、無担保ローンの保証などを手がけてきた。2023年3月期の売上高は324億5200万円(前年度比0.7%増)、営業利益は68億8000万円(同36.8%減)だった。

一方のNTTドコモは、会員数が約9876万人の「dポイントクラブ」を運営しているほか、個人向けローンサービス「dスマホローン」の累計貸付額が、2024年2月時点で370億円に達するなど、強固な事業基盤を持つ。

こうした両社の経営資源を活用して、事業を拡大しようというのが今回のM&Aの狙いで、オリックス・クレジットがこれまで培ってきた個人向け金融の審査ノウハウやオペレーションと、NTT ドコモが保有する会員や事業基盤を活用して、スマートフォンで利用できる融資分野の業容を拡大するとともに、新たな融資サービスや住宅ローンなどを開発する計画だ。

コロナ禍でM&Aに変化も

オリックスはこれまで積極的なM&Aで事業領域を拡大してきた。同社が公表している沿革によると1986年に茜証券に資本参加(1995年にオリックス証券に社名変更、2010年にマネックス証券と合併)したのを皮切りに、1988年の阪急ブレーブス(現オリックス野球クラブ)、1998年の山一信託銀行(現オリックス銀行)、2003年のジャパレン(2005年にオリックス自動車に統合)など、数多くの企業を傘下に収めてきた。

これに対しコロナ禍の中のM&Aには変化が見られる。2020年以降のオリックス関連のM&Aに関する適時開示情報は、今回のオリックス・クレジットを含め6件ある。

このうち、買収は2022年の化粧品、健康食品大手のディーエイチシー(DHC)の1件だけで、残りの5件は売却案件だった。

この5件のうち、2021年に全工場や従業員を譲渡した後発薬メーカーの小林化工は、2020年に子会社化した企業で、2023年に譲渡した保険代理店のライフアシストは、2020年に子会社化した企業だ。ここからは時代の変化のスピードに応じた、迅速な決断を下していることが見て取れる。

こうした中、唯一の買収となったDHCは別格だ。オリックスが2024年3月にまとめた報告書「オリックスグループの強みと今後の成長戦略」の中で、成長支援を通して高いリターンを実現できる投資先としてDHCを挙げている。

同報告書には過去の成長戦略の事例として、1998年の買収後、当期利益が4億円から195億円の約50倍に拡大した山一信託銀行(現オリックス銀行)の事例と、2023年3月期までの15年間で保険料収入などが1042億円から4532億円に約4.3倍に拡大したオリックス生命(1991年にオリックス・オマハ生命として設立)の事例を挙げている。

DHCは今後成長が見込めるヘルスケア分野に関わっており、直営店に加えコンビニエンスストアやドラッグストアなど幅広い販路を持つ。

現在、DHCについては「成長戦略を実行中」としており、いずれオリックス銀行やオリックス生命と並ぶ存在になることへの期待の高さがうかがえる。

オリックスの沿革と2020年以降の主なM&A
1964 大阪市にオリエント・リース(現 オリックス)設立
1970 大阪証券取引所市場第二部に株式上場
1971 東京証券取引所市場第二部に株式上場
1972 本店を大阪から東京へ変更
1989 オリックスに社名変更
1998 ニューヨーク証券取引所に上場(日本企業で12番目)
2021 後発薬メーカーの小林化工(2020年に子会社化)の全工場を譲渡
2021 クラウド会計ソフト大手の弥生(2014 年に株式取得)を米KKRに譲渡
2022 化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC)を子会社化
2023 保険代理店のライフアシスト(2020年に子会社化)を譲渡
2023 保険代理店のライフタイムコンサルティング(2012年に設立)の保険契約の一部を譲渡
2024 総合信販のオリックス・クレジット(1979年設立)をNTTドコモに譲渡

当期利益が2期連続で過去最高を更新

オリックスの2024年3月期の売上高は2兆8143億6100万円(前年度比5.7%増)、当期利益は3461億3200万円(同19.2%)の増収当期増益だった。

当期利益は2019年3月期の3237億4500万円を上回り過去最高を更新した。生命保険やオペレーティング・リース、金融などが好調に推移したことで、利益が膨らんだ。

2025年3月期については当期利益のみ公表しており、前年度比12.7%増の3900億円を見込む。2024年3月期の勢いを維持し、過去最高を2期連続で更新することになる。

売上高はコロナ禍の中の2020年3月期と2021年3月期は停滞を余儀なくされたが、2022年3月期はコロナ前の2019年3月期を上回り、その後も増収を続けており、2025年3月期は2ケタ近い増収となれば3兆円越えも見えてくる。

オリックスは2024年4月に創立60周年を迎えた。前年の2023年にオリックスの社員が大切にする共通の価値観(Culture)を明文化した「ORIX Group Purpose & Culture」を制定しており、今後は「ORIX Group Purpose & Culture」を軸に、未来をひらくインパクトを生み出すことで社会に貢献するとしている。

その「ORIX Group Purpose & Culture」では、新しいビジネスの芽を見出すことが重要としたうえで「異なる視点や専門性を持った仲間と意見を交わし、垣根を越えて協力し合う」としている。

この文言からは、創立70周年に向けスタートアップとの協業やM&Aが活発化する姿が浮かび上がってくる。オープンイノベーション(社内外の技術やサービスを組み合わせて革新的な価値を創り出す取り組み)が、大きな流れとなりつつある現状を踏まえると、この予想はそう大きく外れることはなさそうだ。

【オリックスの業績推移】2025/3は予想(当期利益のみ公表)

決算期

売上高(億円)当期利益(億円)
2019/324348.643237.45
2020/3 22803.29 3027.00
2021/3 22927.08 1923.84
2022/3 25203.65 3121.35
2023/3 26663.73 2730.75
2024/3 28143.61 3461.32
2025/3 非公表 3900.00

文:M&A Online

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