海外旅行者のバイブル『地球の歩き方』シリーズ(同社ホームページより)

帝国データバンクによると、ダイヤモンド・ビッグ社が5月19日に東京地裁より特別清算開始命令を受けた。同社は1969年9月に設立された、出版大手ダイヤモンド社の子会社。旅行ガイドブックの編集・出版を手がけ、1979年に創刊した『地球の歩き方』シリーズで有名だ。一部ネットメディアで同シリースが廃刊になると伝えられたが、これは明らかな誤報。同シリーズは引き続き発行される。なぜか。

学研グループに事業譲渡されていた『地球の歩き方』

実は『地球の歩き方』は2021年1月に、ダイヤモンド・ビッグ社から学研ホールディングス<9470>が設立した孫会社の株式会社地球の歩き方(東京都品川区)に事業譲渡されている。今回清算するダイヤモンド・ビッグ社とは、すでに無関係なのだ。

学研ホールディングスは2009年以降、少なくとも8件の買収を実施している。同社が同シリーズの事業譲渡に乗り出したのも、自然な流れだった。

学研ホールディングスの主な買収案件

公表日取引価格内 容
2009年1月13日 14億円 学習塾・予備校経営の創造学園を子会社化
2009年1月13日 非公表 学習塾経営の早稲田スクールを子会社化
2012年9月28日 5億円 福祉・介護施設運営のユーミーケアを子会社化
2013年8月13日 30億9000万円 九州で学習塾を経営する全教研を子会社化
2015年1月30日 17億4600万円 学習参考書の文理を子会社化
2016年7月1日 非公表 市進ホールディングス<4645>から埼玉地区の学習塾事業を取得
2018年9月4日 90億2000万円 認知症ケアのメディカル・ケア・サービスを子会社化
2022年4月1日 非公表 英字ニュースサイト「Japan Today」など運営のジープラスメディアを子会社化

会社は消えても「事業」は生き残る

『地球の歩き方』は日本人の海外旅行ブームに乗って100タイトル以上を発行。現地の口コミなど従来のガイドブックとは一線を画す実用書として人気を博した。「ドル箱商品」を得たダイヤモンド・ビッグ社は、2001年9月期に年間売上高112億6500万円をあげている。

その後は出版不況が長引いた上に、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う海外渡航制限の影響もあって、2020年3月期には同28億8500万円にまで激減。学研グループへの事業譲渡に踏み切った。ダイヤモンド・ビッグ社は2023年3月31日に株主総会の決議により解散しており、清算は既定路線だった。負債総額は2022年3月期末時点で約10億4977万円。

事業譲渡により『地球の歩き方』シリーズは生き残った。その決断をためらっていたら、同シリーズは惜しまれつつ歴史の幕を閉じることになっただろう。企業は消滅しても、商品は残る。

コロナ禍を支えた実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済は2023年7月から2024年4月にかけてピークを迎える。事業継続を断念せざるを得ない企業も急増する見通しだ。そうした企業でも、将来性のある事業が存在するケースも少なくない。

事業譲渡ができれば製品やサービスは残り、顧客や取引先への責任も果たせる。状況次第で雇用も守れるだろう。「座して死を待つ」よりも、事業譲渡を模索する方が得策と言えそうだ。

事業譲渡ではM&A仲介事業者などから、助言や買い手探し、譲渡交渉などの支援を受けられる。経営が行き詰まる前に真剣に考えておきたい。

文:M&A Online

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