「スタートアップM&A」の授業風景

日本企業の間でスタートアップへの投資や買収が増えている。そのような中、京都大学経営管理大学院は、2022年の秋学期から起業家と大企業の共創を担う人材の育成を目的とした「スタートアップM&A」(ストライク寄付講義)の講義を始めた。

同大学院の松本茂特命教授が講義を担当し「企業のM&A戦略マトリックスを学ぶ」「深化と探索の両利き経営を理解する」「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)によるスタートアップ発掘から、買収後の新市場形成を一連の企業行動として理解する」ことを到達目標にしている。これまでに「Googleの勃興−200を超えるスタートアップM&A」や「スタートアップの経営−イグジット戦略」などの講義が行われた。

どのような内容なのか。後半入りの8回目の「スタートアップ投資の手法−CVC」の授業に参加してみた。

両利きの経営とは

授業は「大きな企業が新興企業に敗れ去るのはなぜなのか」との、松本特命教授の問いかけから始まった。

受講生とのやり取りのあと、大企業には能力があるがゆえに、新しいことに挑戦できない「能力の罠」と、新たな試みの失敗に慣れて何度もそれを繰り返す「失敗の罠」が、その原因に挙げられた。なかでも、能力の罠は、新製品の投入によって既存製品の売り上げが減少する「カニバリゼーション」が起きることを懸念し、既存製品の生産や販売で高い能力があることが、新製品開発や新製品投入の躊躇(ちゅうちょ)を招く状況などが示された。

さらに「深化と探索の両利き経営」のテーマに進み、既存事業の改善を重ねる「深化」と、新しい事業を生み出す「探索」の両方を追求することが、企業の持続的な成長に不可欠であるものの、これを両利きで行うことは難しい。このため、「探索」の活動を社外の組織と行うオープンイノベーションの動きが拡がり、その一つとしてスタートアップへの投資や提携を推進するCVCの設立が相次いでいることが紹介された。

同講義の受講生は30代の社会人や社会人経験者らが中心で、授業ではスタートアップでの資金調達や資産運用の経験談などを交えたディスカッションが行われた。今後、ダイキン工業やストライクがゲストスピーカーとして登壇するという。

松本茂京都大学経営管理大学院特命教授は、PwCや英HSBCの投資銀行部門などで20年間、M&Aアドバイザーとして、米国、英国、中国、ベトナムなど20カ国50の企業の買収案件に助言してきた。研究テーマは、「海外M&Aによる利益成長モデル」。著書に「海外M&A新結合の経営戦略」(東洋経済新報社)や「海外企業買収 失敗の本質」(同)などがある。

文:M&A Online編集部