岩手県内唯一のプロサッカーチーム・いわてグルージャ盛岡は、今季J3リーグに所属している。
再びJ2に昇格して所属し続けるには、Jリーグの基準を満たしたスタジアムが必要となる。
スタジアムの整備計画を2024年6月までにJリーグに提出しなければならないが、まだ方針が定まっていない状況だ。
盛岡市や県との連携が必要不可欠なこの“スタジアム問題”について解説する。

まずは大きな枠組みを確認する。
プロサッカー・明治安田生命Jリーグは、国内最高峰のJ1からJ3までカテゴリーがあり、現在は合わせて60チームが加盟している。

いわてグルージャ盛岡は、2014年から8年間J3に所属。
2021年に2位に入って昇格を果たし、2022年はJ2の舞台で戦った。
しかし強豪がそろう中で苦戦し降格。2023年は再びJ3のステージにいる。

Jリーグのカテゴリーが上であるほど地域への貢献も大きくなる。
経済の専門サイト・経済効果NETの試算によると、J2で戦った2022年、いわてグルージャ盛岡が生み出した経済波及効果は、約33億1300万円とされている。岩手県の税収は3600万円あった。

昨シーズンまで監督を務めていたいわてグルージャ盛岡の秋田豊社長は、「みんなで町おこしをしたい」と語る。

いわてグルージャ盛岡 秋田豊社長
「決してグルージャだけが潤うとは全く考えていなくて、この岩手県が発展するため、そして子どもたちがこの岩手県にいて『ああ良かったな』『ここでプレーしたい』と思える環境をつくっていきたい」

いわてグルージャ盛岡が再びJ2に昇格して所属し続けるには、J2の基準を満たしたスタジアムが必要だ。

現在のホーム・いわぎんスタジアムと、J2の基準を照らし合わせてみる。
まずは収容人数について、J2の基準は「1万人以上」とされているが、いわぎんスタジアムは芝生席を含めて約5000人だ。

必要とされる「大型の映像装置」は設置されていない。

そして、観客席は「3分の1以上屋根で覆われている」必要があるが、こちらも遠く及ばない状況だ。

このように基準を満たしていないが、昨シーズン、いわてグルージャ盛岡はJ2で戦った。その理由は、「例外規定」という制度を使ったからだ。

これは「近いうちにJ2の基準を満たしたスタジアムを整備する」という約束をした上で昇格を認めてもらえる、いわば特別ルールだ。
具体的には2024年6月までにスタジアムの計画をJリーグに提出し、その2年後(2026年)までに着工、さらにその2年後・2028年2月までに完成している必要がある。
もし達成できない場合は、今後J2やJ1に昇格したとしても強制的にJ3に降格させられることになる。

この問題を解決するためには、2つの選択肢がある。
「新しくスタジアムを建設する」か、「いわぎんスタジアムを改修する」かだ。

いわてグルージャ盛岡は費用を抑えるため、改修する案を軸に検討を進めたい考えで、その際は設計費を含め約55億円とみている。

ホームゲームに駆けつけたサポーターにスタジアムへの思いを聞いた。

いわてグルージャ盛岡のサポーター
「スタジアムは一番目立つところだと思うので、格好良いスタジアムを造って雰囲気をつくっていくことが一番大事」
「J2・J1にこれから上がっていくと思うので、もっと大きいスタジアムになってほしい」
「県民一丸となってスタジアムを造っていく機運を盛り上げていければ良い。他の県から観光客を含めて呼び込む力がスポーツにはあると思っている。その力をどうかご理解いただきたい」

いわてグルージャ盛岡は、現在自治体やJリーグとスタジアムの案をすり合わせながら方向性を定めようとしている。

いわぎんスタジアムを所有する盛岡市では…。

盛岡市・スポーツ推進課 箱石元課長
「プロスポーツ支援として精一杯後押ししていきたいとは考えている。関係機関等と連携・情報共有しながら知恵を出し合って進めていきたい」

また、県でも慎重な姿勢を示しています。

県・スポーツ振興課 鈴木忠総括課長
「グルージャさんの方から具体的な提案が今後あると思うので、それを踏まえて検討していく」

スタジアムの建設を巡る動きは県外でも活発に起きている。
秋田県では、J2の基準を満たしたフィールド全体を屋根で覆うスタジアムを新しく建設する案が示されている。見込まれる建設費は約143億円だ。

しかし、秋田県の佐竹知事は2023年4月の会見で「80億円の規模を想定している」という考えを示すなど足並みがそろっていない状態だ。

どの地域でも“ゴール”が簡単ではないことが分かる。

問題を県内に戻し、ポイントを振り返ると…。
いわてグルージャ盛岡はJ2の基準を満たしたスタジアムが必要で「新築」と「改修」の選択肢がある。
現時点でいわてグルージャ盛岡は「改修」を軸に検討を進めたい考えで、費用の想定は55億円。
国の補助金も想定しながら盛岡市や県から費用負担の同意を得る必要がある。
こうしてまとめた整備計画を2024年6月までにJリーグに提出しなければいけない。
そして、2022年1年間のいわてグルージャ盛岡の経済波及効果は33億1300万円と試算されている。

タイムリミットが迫っている中、いわてグルージャ盛岡の秋田豊社長は「県民の皆さんにスタジアムの必要性を感じ声を上げてほしい」と呼び掛ける。

いわてグルージャ盛岡 秋田豊社長
「崖っぷちに追い込まれていることを改めて分かっていただきたい。J3からJ2に上がって、こういう(大きな経済効果や夢を生み出す)ことができる可能性のあるクラブの火を消すことになる。スタジアムのことを真剣に考えていただいて、グルージャが上に向かっていく手助けをしてほしい」