物議を醸した一部駅の時計撤去

 先日、JR東日本が一部の駅で時計を撤去したことがSNS上で物議を醸した。

 駅に掲げられている時計は「設備時計」と呼ばれる。精度の高い「親時計」で時刻を調整し、通信ケーブルを介して複数の「子時計」に送ることで1秒の狂いもなく正確に時を刻む。駅に限らず、ビルや街中の設備時計は日常の風景に溶け込んでおり、特に意識して見る人が少ないだろう。

 東急電鉄によると、設備時計は定期的な更新やメンテナンスを実施する必要があること。また、時計内部の針を動かす部品が壊れた場合には交換が必要となり、手間がかかるという。

 JR東日本は時計の経年状況、駅の利用客が比較的少ない、メンテナンスの軽減、携帯電話の普及で、利用客自身が時間の確認ができることなどを理由に、2021年11月から約500駅を対象に駅の時計の撤去を開始した。

 この施策は山梨県や神奈川県の一部の駅から始まったが、地元にはなんの説明や予告もなかったことから、山梨県大月市と上野原市の逆鱗(げきりん)に触れた。

 それぞれの市議会で、「正確な時計の設置は鉄道事業者の当然の責務」などを理由に「時計の再設置」が決議され可決。JR東日本八王子支社に再設置を求めたが、内田英志支社長が2022年3月26日の会見で「予定通り進める」ことを表明。併せて「撤去後になにができるか検討する」旨の発言をした。

JR東日本常磐線柏駅の中央口コンコース(画像:岸田法眼)

首都圏の駅の時計は多過ぎる?

 首都圏や関西圏などの駅をいくつかまわってみると、JR東日本は時計を構内のあちこちに設置していることが分かった。むしろ利用客の多い都市駅を中心に時計の数を見直したほうがよさそうに思える。

 例えば常磐線柏駅は中央口、南口ともコンコースに時計が各2か所存在する。特に南口はスペースが狭いのにふたつの時計がほぼ隣接している。ひとつを撤去し、経年に問題がなければ別の駅に差し替えたほうがよいのではないか。この事象はJR西日本山科駅でも見られた。

 ほかに気になったのは、単体の時計が多いことだ。国鉄時代から時計が「代替わりしただけ」という可能性もある。首都圏の私鉄、地下鉄のほうが効率化や合理化が進んでいる印象を受けた。

東急電鉄の時計つき行先案内表示器(画像:岸田法眼)

効率化、合理化によって手間を省く

 首都圏の私鉄・地下鉄の時計については、東武鉄道、東京メトロ、東急電鉄の協力を得た。

 東武鉄道では1986(昭和61)年11月より、東武宇都宮駅を皮切りに、指針式の時計と発光ダイオード(LED)式行先案内表示器が一体化したものを導入し、多くの駅に波及した。一体化を図ることで、現在時刻と発車時刻が把握しやすいメリットがある。ただ、このタイプの導入に伴い、単体の時計を置き換えた駅についての記録がないという。現在も駅によっては単体の時計が設置されている。

 東京メトロも1991(平成3)年11月29日の南北線開業時より、デジタル式時計(のちにLED式に変更)とLED式行先案内表示器が一体化したものを導入。現在時刻がより分かりやすく把握できるようになった。以降、他路線にも順次導入され、東西線の中野と西船橋を除き、単体の時計を置き換えた。

 東急電鉄も1996年の東横線自由が丘駅を皮切りに、LED式時計とLED式行先案内表示器が一体化したものを導入した。時計については毎日自動で調整しているという。現在も駅によってはコンコースの広告時計、ホームの子時計など単体の時計が設置されている。

 時計と行先案内表示器の一体化は、メンテナンスも同時に行えるメリットもあり、手間の低減につながっていることがうかがえる。

 実はJR東日本も一部の駅で指針式の時計とLED式行先案内表示器が一体化したものを導入しているが、見た限り普及していないように思う。

 一方、JR西日本の福井駅、大阪駅などを見る限り、指針式の時計とLED式行先案内表示器が一体化したものに統一されており、適切な配置、乗客への利便性重視で進めている印象を受けた。ただ、先述の山科駅がなぜ非効率な配置になったのかが解せない。

JR東日本常磐線北千住駅コンコース。時計と行先案内表示器が別々(画像:岸田法眼)

JR東日本がとるべき行動とは

 2010年近くになってから携帯電話は時刻が自動補正できるようになり、時刻がほぼ正確に表示できるようになった。当該機種の移行が進むと腕時計を持つ人が減った。とはいえ、電池切れが発生すると現在時刻が分からなくなることから、駅の時計があると安心感がある。

 しかしながら、なんの予告もなく駅の時計を撤去したら、地元の怒りを買い、さらにメディアにも大ごととして取り扱われてしまう。交通ネットワークが充実し、「黙って乗ってくれる首都圏」とは異なり、地方はマイカー、高速バスなどという選択肢がある。将来はJR東海の中央新幹線も加わり、品川〜山梨県内間が競合する。

 JR東日本がまずとるべき行動は、駅の時計のあり方や配置を見直すことだろう。その上で、時計とLED式もしくは液晶ディスプレー(LCD)式行先案内表示器が一体化したものに置き換えることを検討すべきだ。

 どうしても時計自体を削減したいのなら、ほぼ正確な時を刻む電波時計に置き換えても問題ないだろう。列車や路線バスでも、電波時計を自前で用意する運転士がいる(筆者が見たのは置き時計で、東急電鉄によると、電波式の腕時計を自前で用意する駅員、乗務員がいるという)。

 JR東日本ホームページで利用客向けのお問い合わせフォームで問い合わせをすると、時間が1か月かかっても必ず回答を送り、

「今後も、みなさまに愛され、親しまれるJR東日本をめざしてまいりますので、引き続きご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます。 東日本旅客鉄道株式会社」

と結ぶ。

 ただ、この文言と真逆なことを推し進めると、“愛されない、親しまれない企業”になるのではないか。利用客は常に目を光らせていることを忘れてはならない。