自動車業界“最後のフロンティア”

 自動車メーカーが“最後のフロンティア”と呼ぶ地域がある。アフリカ大陸だ。日産によると、世界の平均自動車保有台数が人口1000人当たり182台であるのに対し、アフリカは「平均42台」である。

 中古車マーケットが大きく、新車販売の割合は高くないが、いずれにせよ伸びしろが大きい。

 それに加えて魅力的なのが、

「人口の伸び率」

だ。2050年には世界の4分の1をアフリカ人が占めるといわれている。しかもその25億人の人々の平均年齢は25歳と予測されている。経済成長率の高さもあって、目を付けない理由がない。

 アフリカの主要国でも、脱炭素化に向け取り組んでいるが、電力不足で頻繁に停電が発生するところが少なくないのが他地域との違いである。

 電気自動車(EV)はやはり高価格で、アフリカでの自動車販売全体の

「1%」

に満たない。2024年は世界中で販売される自動車の5台に1台がEVであることと比較するとその差は際立つ。

 これらの状況からガソリン車が主流ではあるが、EVとの中間である、ハイブリッド車(HV)の需要が高まっている。

 主要国のHV事情を自動車メーカーの動きとともに追う。

エジプトの道路(画像:写真AC)

エジプト人気の「日産」

 アフリカでは日本車のプレゼンスが高く、中古車を中心に日本車があちこちで見かけられるという。

 例えばエジプトでは、日産が人気だ。日産は、60年以上前にアフリカに参入し、エジプトと南アフリカに製造工場を持つのもその理由のひとつだろう。

 各自動車メーカーが完成車を輸入する形で、もしくは国内で組み立てのうえ、販売している。2023年のエジプトでの日産のシェアは前年に続き1位であった。1万3612台、シェア19.7%である(2024年2月13日付、『日本貿易振興機構(ジェトロ)』)。

 日産は、アフリカの地においても人々が「環境に優しい交通手段を採用する傾向にある」と分析。

 2023年にモロッコでクロスオーバー車「キャシュカイ」、2024年2月にスポーツタイプ多目的車(SUV)「X-TRAIL(エクストレイル)」、3月にチュニジアで「キャシュカイ」を日本から輸入し販売すると発表した。

 EV需要を試すのに、電力インフラが不十分であることから、ハイブリッド技術「e-POWER」搭載車を導入するのである。

南アフリカ共和国の最大都市・ヨハネスブルグ(画像:写真AC)

南アの状況

 南アフリカ共和国(南ア)では近年電力不足が悪化し、2024年も計画停電を行っている。対策は行われているものの、

・発電設備の老朽化
・電力会社の汚職
・熟練技術者の不足
・電線網の窃盗

といった問題から、根本的解決に時間がかかるとされる。

 一方、アウディなどの自動車メーカーの投資のおかげもあって、高速充電がないものの、大都市圏を中心に充電スポットの普及率は世界的にみても高い状況にある(2023年3月2日付、『Cars.co.za』)。

 そんななか政府は2023年にEV政策ロードマップを発表した。南アの自動車産業においては、2026年にEVの生産を開始する計画だ。

 自動車産業は、国内総生産の5%を占め、10万人以上の雇用がある一大産業である。南アはアフリカ大陸最大の自動車生産拠点で、世界150か国以上に輸出している。

 欧州では2035年にガソリン車の新車販売が禁止されるが、南アで生産する4分の3が欧州諸国に輸出されるので、この影響は大きい。

2022年10月31日撮影、東京都内の自動車ショールームに掲げられたトヨタのロゴマーク(画像:AFP=時事)

トヨタHVブランドの成功

 ところで、南アの新車販売台数のシェアのトップ3メーカーは、

1.トヨタ
2.フォルクスワーゲン
3.スズキ

である。現地の自動車情報サイトに掲載された記事「南アフリカで最も安いHV7選」でもトヨタの車が紹介されている(2024年2月16日付、『Cars.co.za』)。

 同記事では、現状HVは高価ながら、その需要は高まりつつあるとし、

「南アフリカではトヨタが群を抜いて成功したHVのブランドであり、2023年のHVは前年比22%増という驚異的な伸びを記録した」

としている。

 南アでいま最も安い「カローラ クロス ハイブリッド」の導入が発表されたのが2020年のこと、その後燃料価格の高騰で、現在はより効率的な車両に対する需要が急増している。ほかのハイブリッド製品やプラグイン・ハイブリッドの投入が検討されている。

 トヨタは2022年に大規模洪水で工場が冠水し全生産ライン停止の被害を経て、2030年までに国内のHVの普及率を3%から20%に高めるという目標を2023年に発表している。

ジャパンモビリティショーに出展したスズキのロゴマーク(画像:時事)

EV普及までの時間とHVの役割

 南アではこの数か月間、新車販売台数の減少が続いているが、3位のスズキもシェアを伸ばしている。そんなスズキは2023年4月に「グランドビターラ」のハイブリッドモデルの販売を開始した。

 米国自動車大手フォードは、2023年11月にHVを生産するために52億ランド(約440億円)を投資すると発表。生産はプレトリアの工場で2024年後半に開始する見込みだ。2026年にEV生産が始まるまでは、同社は「レンジャー」等、HVの生産に注力する。

 南アを中心にみてきたが、EV導入を前に、各社HVに注力していることがわかった。計画停電があっても、それ以外の時間に充電できるので、

「日常使いには問題ない」

とするユーザーもいるので、意外とネックにならない可能性はある。

 とはいえ、EVが強力に推進されていくのには時間がかかりそうであるし、燃料費高騰などで、しばらくはHVに熱視線が注がれる時期が続きそうだ。