就活シーズン到来

 大学生にとって本格的な就職活動シーズンが到来した――。

 慣れないリクルートスーツに身を包み、説明会や採用面接に臨む学生を見ると、大学教授の筆者(戸崎肇、経済学者)はどうしても自分が就職活動をしていた頃と比較してしまう。

 バブル黎明期に就職活動を行った筆者(1963年生まれ)からすると、今の学生は本当に大変だ。一方で、筆者が当時就職した大手航空会社の就職人気が大きく変化していることも思い知らされる。

 航空会社の人気はその時々の情勢に大きく左右される。ただ、傾向としては、就職における

「社会的地位」

は総じて低下している。

飛行機(画像:写真AC)

大学生のキャリア志向の変化

 男子学生について考えると、航空会社で働くメリットは小さくなっている。

 まだ海外に出ることが今ほど一般的でなかった頃は、海外で働くことをイメージしやすかったため、航空会社に憧れる大学生は多かった。また、“公共性の高い産業”として政府の規制も強く、航空業界に対する“親方日の丸”的な捉え方もあった。つまり、

「つぶれることなく好条件で働くことができた」

のである。国鉄(現JR)などと並び、ある種、国の使命を担う“特権的な会社”というイメージがあった。

 しかし、1980年代のバブル経済の到来とともに、海外に行くことが当たり前になった。さらに1990年代には航空業界の規制緩和が進み、会社間の競争が激化した。規制時代のように、

「特別な努力をしなくても安定的に大きな利益を得られる」

ビジネスではなくなったのだ。2000年代に入ると、格安航空会社(LCC)が世界市場に登場した。そして、海外に出るための障壁はますます低くなった。人々にとって航空会社は

「うまく利用するもの」

であり、そこで働くことの「特権性」「セレブ性」は薄れていった。一方、本当に国際的な仕事がしたい大学生は、

・商社
・大手メーカー
・外資系企業

を目指すことになる。これらの企業は総じて給与が高く、特に商社や大手メーカーの場合、日本経済の発展を具体的に担っているという自負を持ちやすい。

 また、日本経済団体連合会(経団連)などの組織で指導的立場に就くことも多い。将来の経済的成功や社会的地位を目指す野心的な若者にとっては、より魅力的なキャリアパスとなるはずだ。

飛行機(画像:写真AC)

需要回復とレジリエンスの必要性

 こうした要因に加え、近年、航空業界への就職人気が低迷しているもうひとつの理由は、

「イベントリスクに脆弱(ぜいじゃく)である」

ことが露呈しているからだ。イベントリスクとは、事前の予期せぬ出来事により価値が大きく損なわれるリスクを指す。

 2001年の米国同時多発テロでは、航空機が直接のテロ手段となり、国際線は対策に追われ完全にまひした。2008年のリーマンショックもJALの破綻を招いた大きな要因である(2010年1月、JALは会社更生法の適用を申請し、2兆3000億円という戦後最大の負債を抱えて事実上倒産。7000億円近い公的資金が投入された)。

 そして何よりもコロナ禍の影響がある。国際線・国内線の長期にわたる厳しい渡航制限の結果、航空業界は壊滅的な打撃を受け、リストラが相次いだ。コロナ禍が一段落してからは、旅行需要の急速な回復が航空業界にとって強い追い風となっているが、これがいつまで続くかは不透明感が強い。そのため、

「レジリエンス(回復力)の強化」

が叫ばれている。収益性の高いビジネス需要については、コロナ禍の際にテレワークやオンライン会議の普及により、将来性はあまり期待できないと航空会社自身が語っている。

 これに加えて国内線では、人口減少による需要の減少も懸念されている。そのため、航空各社は近年、

「地方創生による需要創造」

に積極的に取り組んでいる。それに連動して、地方に社員を派遣したり、希望する社員に地方に住む機会を提供したりすることで、社員のモチベーションを高め、多様な働き方ができることを示そうとしている。

 とはいえ、航空会社が地方創生の主役になれるかどうかは未知数だ。本当に地方創生やまちづくりに携わりたい学生は、大手不動産会社などのデベロッパーを志望するからだ。

飛行機(画像:写真AC)

女子学生人気の背景

 しかし、女子学生にとって、航空会社への就職人気は依然として高い。経済メディア・ダイヤモンドオンラインが2024年5月15日に発表した「息子・娘を入れたい会社2024」ランキング(ベスト10)によると、2023年春は

●文系女子
・JAL:7位(2010年ランク外、2000年4位)
・ANA:4位(2010年ランク外、2000年3位)

●理系女子
・JAL:5位(2010年ランク外、2000年ランク外)
・ANA:7位(2010年ランク外、2000年ランク外)

となっており、その結果について「業績が好調で知名度の高い大手企業に人気が集中した」ためと書いている。

 筆者は加えて、航空会社は福利厚生が充実しており、働きやすいことを指摘する。資生堂などと並んで、女子大生の就職先として航空会社は常に上位にランクインしている。サービス業として、イメージ戦略として、女性の感性が強く求められ、活躍がイメージしやすいからだろう。

 客室乗務員(CA)の華やかなイメージも大きい。実際には、CAの待遇は“隔世の感”があるほど厳しくなっている。かつて経営が絶頂期だった頃は、CAの待遇は経済的にも社会的地位の面でもトップクラスといってよかった。

 しかし現在では、仕事量は増え、見返りはそれほど大きくない。実際、想像上のヒエラルキー(階級)でいえば テレビ局のキー局のアナウンサーがトップだろう。とはいえ、華やかなイメージは健在で、また、事務職の働きやすさも、女子学生の就職が人気なのはうなずける。

 先日、JALには女性社長が誕生した。ここに引かれる女子学生は確実にいるだろう。男女機会均等という評価は確実に高まる。

飛行機(画像:写真AC)

新卒採用と航空業界の重要性

 こうした新卒採用だけでなく、航空会社は中途採用を増やしている。

 即戦力となる人材を確保することで、体制を強化しようというわけだ。とはいえ、優秀な新卒の確保は重要であり、それだけに人気ランキングの動向は気になるところだ。

 やはり、航空会社なくして国際ビジネスは成り立たないし、異文化理解による国際化の進展もない。

 航空業界の本質と社会的重要性をしっかりと理解した上で、それを目指す学生が増えることを期待したい。