“マイル修行”にいそしむ人たち

 お盆やゴールデンウィークに、混雑するエコノミークラスのカウンターを横目に、ビジネスクラスのカウンターで素早くチェックイン。優先検査場から入り、出発まで優雅にラウンジで過ごす。そして、機内に入る時間になったら、優先搭乗で真っ先に――。

 そのような上級ステータスを得るために、1日に何往復も国内線を乗り継いでいる人の話を聞いたことがあるだろうか。彼らの行動は“マイル修行”と呼ばれ、

・JAL「JGC修行」
・ANA「SFC修行」

がある。実践する人たちは

“マイル修行僧(以下、修行僧)”

と呼ばれる。ただ、そんな彼らの裏ではちょっとした問題が生じている。本稿では、現役の航空会社社員である筆者(ジーナ、旅行ライター)が、その実態を紹介する。

空港(画像:写真AC)

短時間乗り継ぎのリスク

“修行僧”の多くは、羽田から沖縄へ、沖縄から先の離島へ、そしてまた羽田へと、1日で何往復もする。そのため、できるだけ乗り継ぎ時間の短い便を選ぶことが多い。ただ、離島や沖縄は、天候によるイレギュラーな事態が多い路線でもある。

 そのような事態で飛行機が少しでも遅れれば、乗り継げなくなり、その結果、予約した後ろの便が次々とキャンセルされることになる。“修行僧”が購入するチケットは格安チケットも多いため、払い戻しをすると手数料の半分が引かれてしまう。そうなると大きな損失となり、

「激怒」

する人も多い。また、1回の旅程で予約できる区間は限られているので、必然的に別々に予約することになる。問題なのは、一連の旅程でイレギュラーな事態が発生したとき、搭乗できない場合は次の便に振り替えられるが、別の予約の場合は元の旅程とのひもづきがないため、航空会社に救済措置がないことだ。

 往復していると、必然的に同じ客室乗務員に何度も出会うことになる。客室乗務員からすると、大型機を使う沖縄線では、ひとりひとりの顔を覚えるのが難しい。しかし、離島への乗り継ぎ便に使われる小型機では、そもそも乗客の数が少ないので、嫌でも覚えてしまう。

 この状況が嫌な人は、大型機であれば座席の属性を変更(例えば前方から後方へ)して予約すれば担当者が変わる。しかし、小型機では客室乗務員はひとり〜ふたりなので、どこに座っても同じ客室乗務員が担当することになる。この点はあきらめて、幹線便で往復するしかないかもしれない。

沖縄(画像:写真AC)

優先席の“不正”使用

 前述したように、“修行僧”たちは最短の乗り継ぎ時間で予約しているため、少しでも出発時間が遅れると、次の便に乗るために飛行機が到着するやいなや猛ダッシュしなければならない。そのため、

「バルク」

と呼ばれる最前列を好んで予約することが多い。この座席を利用したことがある人ならわかると思うが、実はベビーベッドを設置できる座席でもあり、機内での移動が困難な人(車いす利用者や体の不自由な乗客など)に割り当てられる。

 もちろん、どの席に座るかは個人の自由であり、“早い者勝ち”なのだが、なかには

「乗り継ぎ時間が短いので、どうしても座りたい」

と半ば脅しで空いていない席に座る人もいる。

 急にこの席を必要とする人も多いので、日系、外資系を問わず、多くの航空会社はフルサービスキャリア(FSC)であれば、あえてこのバルクを搭乗締め切り時間まで残している。そのため、あまり早い時間帯に利用したくないスタッフも多いのだ。少し迷惑である。

飛行機の座席(画像:写真AC)

“修行僧”の体力問題

 気圧の変化、長時間座っていることによる筋肉や関節のこわばり、機内の極度の乾燥などにより、空の旅は想像以上に体力を消耗する。むくみや機内の乾燥を防ぐための客室乗務員の努力は、涙が出るほど徹底している。

 長時間飛行機に乗るのはそれだけ大変なことなので、“修行僧”が休みの日にわざわざ往復して、また会社に戻るというのは、

「体力的にきつくないのだろうか」

と思うことがよくある。

 しかも前述したように、最短時間で乗り継ぎができるように旅程が組まれているので、少しでも飛行機が遅れると、出発した瞬間から乗り継ぎ地のことを考えなければならず、精神的にもストレスがたまる。最後の便が遅れるならまだいいが、運悪く最初の便が遅れると、乗り継ぎに間に合うかどうかのストレスが一日中つきまとうのだ。

 そうなると、肉体的にきつい“修行”であるにもかかわらず、精神的に疲弊してしまう。普段は温厚な人でも、ささいなことですぐ怒るようになる。その怒りの矛先は、航空会社の従業員や隣にいる人に向けられることが多い。

飛行機(画像:写真AC)

問われる必要性

 いうまでもなく、航空会社は、年会費を払ってたくさん飛行機に乗り、上級ステータスを維持するカード会員の皆さまにとても感謝している。筆者もそのひとりである。とてもとてもありがたいお客さまである。

 ただ繰り返しになるが、“修行”は肉体的にも精神的にも過酷だ。国内外を問わず出張の多い人なら理解できるが、年に数回の旅行のためだけに心身と時間をすり減らして、本当にそのステータスが必要なのか――もしかしたら、考え直す余地があるかもしれない。