革新的「ギガキャスト」の挑戦

 近年、自動車の主要構造材として「ギガキャスト」を採用する傾向が強まっている。ギガキャストはテスラが開発した技術で、世界標準になる可能性を秘めている。

 自動車の主要構造材とは、エンジンルームやリアアクセル周りの構造を形成する部品で、
・フロントアンダーボディ
・リアアンダーボディ
・フレーム

などがあり、自動車の最も重要な骨格部分である。

 現在の主流は、プレス製部品を主要構造材として、それらをスポット溶接で層状に結合し、ひとつの主要構造材とする方法である。この構造は大小の差はあれ、自動車の大量生産開始以来、長年使用されてきたが、近年、主要構造材として全く異なる構造・ギガキャストを採用する動きがあり、注目を集めている。

 ギガキャストは、ダイカストという鋳造技術を発展させたもので、自動車の主要構造材など非常に大きな部品を、アルミ製ダイカストで一体成形する技術である。

 従来よりも大きな製造設備を必要とするため、「ギガ」キャストや「メガ」キャストとも呼ばれるが、テスラがギガキャストという名称でいち早く自動車に採用した。

 テスラは電気自動車(EV)の専門メーカーであり、数々の先進技術を導入しているが、ギガキャストは量産車にもすでに採用されている技術のひとつである。多くの部品を組み合わせて作るプレス製構造材に対し、ギガキャストはひとつの部品から作れるため、部品点数を大幅に削減できる。

 ギガキャストを採用するには、従来のダイカスト機械をはるかにしのぐ性能を持つ大型機械が必要であり、テスラもその採用のために専用機械を導入している。当初は他メーカーから全く相手にされなかったが、徐々に注目され始め、中国のメーカーも採用し始めた。

 こうした動きを受け、世界の主要自動車メーカーもギガキャストの採用に前向きな姿勢を見せている。トヨタ(2026年)、日産(2027年)、ホンダといった国内メーカーも、2020年代に量産車の一部にギガキャストを採用する計画を発表している。

テスラCEOのイーロン・マスク(画像:AFP=時事)

製造コスト削減の鍵

 ギガキャストは、テスラが自動車にいち早く導入した技術であり、メリットとデメリットが明確な技術でもある。

 テスラは、2019年に登場したモデルYで、量産車にギガキャスト製の部品を導入した。それまでは、モデル3など、従来の車と同じプレス加工による主要構造材を採用していた。しかし、プレス品を積み重ねて溶接するという構造では、組み立て時に高い精度が求められる。このデメリットを克服するために、テスラCEOが考え出したのが、組み立ての必要のない一体成型部品であるギガキャストだった。

 ギガキャストの最大のメリットは、従来のプレス製品で80〜90個使用されていた部品をひとつのギガキャスト製品に集約できるため、部品点数の削減が可能になることだ。また、部品管理コストの削減や組み立てラインの簡素化により、製造コストが30〜40%削減されたともいわれており、大型でありながらシンプルな部品を採用できるメリットは大きい。

 一方で、ギガキャストにはまだ発展途上の部分も多く、新規導入には大規模な設備投資が不可欠だ。ギガキャストの製造機械には、型締め力6000tfクラスの大型機が必要であり、従来のダイカストの上限であった4000tfクラスでは能力不足である。

 また、ギガキャストの製造機械も巨大で、鋳造金型も巨大であるため、量産車に使用するには巨大な設備が必要となる。部品点数が少なく、組み立て時間も短縮できるが、従来のプレス設備とは別の設備が必要であるため、現在、国内の大手メーカーが研究・開発を進めている。

 さらに、ギガキャスト製の部品は鋳造品特有のデメリットもあり、製造時の反りや歪みによる寸法精度の低下が大きな問題となっている。プレス製部品を組み合わせる場合は、組み立て時に寸法精度を調整する設備があるが、一体成形のギガキャスト製品では完成するまで寸法精度の確認ができないため、事後的な修正が困難である。

 ギガキャストを大規模に採用した場合、不良率がどうしても高くなってしまうため、ノウハウの蓄積が必要になってくる。また、部品重量や剛性という点でメリットを持っているが、プレス製品業界でもギガキャストに対抗する技術開発が進められている。

日本製鉄のウェブサイト(画像:日本製鉄)

軽量化の課題

 日本製鉄は、自動車用プレス製品も製造する大手メーカーであり、国内大手メーカーの主要構造材も製造しているが、国内自動車メーカーのギガキャストへの切り替えの動きを受けて、プレス製品で対抗する技術を開発した。

 日本製鉄が開発した新技術は、複数の鋼板を重ね合わせてホットスタンプで成形し、部品を一体化する方法で、従来は溶接で20点近い部品を組み立てていたのに対し、部品点数をふたつに減らすことができる。プレス成形方法も改良され、複雑な構造部品の一体成形が可能となり、ギガキャストと同等の成形性も実現した。

 ギガキャストのメリットとしてよく挙げられるのが軽量化だが、一見すると、鉄系材料の3分の1の比重を持つアルミ製のギガキャストは軽量化できそうだ。しかし、鋳物であるギガキャストを薄くすることは難しく、構造が複雑になればなるほど肉厚部分が増え、重量が増す。

 また、鋳造品にリブなどを入れて補強することは容易であるが、アルミ材は鉄系材料に比べてどうしても強度が落ちるため、鋼板プレス品と同等の剛性を確保するには、やはり全体重量の増加が問題となる。

 日本製鉄のホットスタンプ技術は、ギガキャストのこうした問題を克服する狙いがあり、高張力鋼板の高剛性プレス製品で一体成形する技術は、競争力が高いと思われる。重量面では、単純計算でギガキャストの30%以下の鋼板で製造できれば、実際には軽量化できるため、プレス製の主要構造材には、さらなる進化が望める余地があるようだ。

 自動車の骨格を形成する主要構造材は現在、大きな変革期を迎えており、今後数年のうちにギガキャストが新たな主流となるか、プレス製品の改良によって復活するかが決まるだろう。

 なお、ロイター通信は5月24日、テスラがギガキャストを後退させていると報じた。関係者ふたりによると、

「ギガキャスト計画が後戻りし始めたのは昨年秋で、テスラが低価格EVの「モデル2」開発を取りやめたとされる今年2月よりも前だ。当時は、モデル2の開発スピードを上げることと、コストがかさむ開発の遅れや製造面での問題発生を避ける上で、ギガキャスト計画棚上げに合理性があった」

という。