中国とASEAN、経済関係強化が加速

 東南アジアの市場をめぐる日中の競争が激しさを増すなかで、日本政府はいま東南アジア諸国連合(ASEAN)の持続可能な成長を支援する姿勢を強くアピールするようになっている。

 岸田文雄首相は5月2日、パリの経済協力開発機構(OECD)本部で開催された東南アジアとの連携に関する会合で、信頼できるデータと分析というOECDの強みを東南アジアの持続可能な成長につなげるため、

「日本OECD・ASEANパートナーシップ・プログラム(JOAPP)」

を立ち上げ、今後3年間で800万ユーロ(約14億円)規模の資金を動員し、民間投資、持続可能性、デジタルなどの分野で、OECD専門家の派遣や調査・分析をするプロジェクトを実施していくと語った。

 一方、中国とASEANの経済関係はますます緊密になりつつある。両者は4年連続で互いにとって最大の貿易パートナーとなっている。

 4月8日には中国外交部の毛寧報道官が、

・中国「ラオス鉄道」
・ジャカルタ「バンドン高速鉄道」

や中国とマレーシアの産業パークなどの協力プロジェクトが地域の成長を加速していると強調している。現在ASEANのデジタル化をけん引しているのも中国企業だ。

三菱自動車のロゴ。2020年1月22日撮影(画像:EPA=時事)

マレーシア元首相の警句

 こうしたなかで、アジアにおける日本の主体的な役割を強く期待してきたのが、親日家として知られるマレーシアの

「マハティール元首相」

だ。同氏が生まれたのは1925年7月10日。間もなく99歳になるが、

「アジアの賢人」

としての明快な主張のさえは衰えていない。1981年に第4代マレーシア首相に就任し、2003年まで22年間の長期政権を全うした。2018年に首相に返り咲き、2020年まで務めた。

 1981年に首相に就いたマハティール氏は旧宗主国・英国との関係を相対化し、アジア諸国・イスラム諸国重視の外交に転換。

「ルックイースト(日本に学べ)政策」

を打ち出し、日本の労働倫理や経営手法を導入しようとした。

 日本の技術協力による近代化を推進したマハティール政権は、1983年には三菱自動車と三菱商事の出資を得て、国産自動車メーカー「プロトン」を設立、1985年に三菱自動車の「ミラージュ」をベースに、国産車第1号の生産を開始。

 しかし、2003年にマハティール氏が退陣すると、三菱自動車と三菱商事は資本提携を解消、2017年には吉利汽車の親会社である浙江吉利控股集団がプロトン株の49.9%を取得している。

 マハティール氏は、日本が自信を取り戻し、アジアにおいて積極的な役割を果たすことを期待しているが、日本が米国に追随して中国と対立することを望んでいるわけではない。米中の間で中立的な立場を堅持するのが、マハティール氏の基本政策だ。

 中国に対するASEANの認識もいま急激に変化しつつある。ASEANが米国と中国の選択を迫られた場合、いずれを取るかについて、シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所が調査したところ、2023年には米国を選択する人が61.1%、中国を選択する人が38.9%だったが、2024年4月には、中国を選択する人が50.5%、米国を選択する人が49.5%となり、逆転した。マレーシア、インドネシア、ラオスでは、

「中国を選択する人」

の割合は7割を超えている。

来日中のマハティール元首相にインタビューする筆者。2024年5月25日撮影(画像:坪内隆彦)

マハティール氏、日本外交に警鐘

 2024年5月25日に筆者(坪内隆彦、経済ジャーナリスト)は訪日中のマハティール氏にインタビューしたが、日本が米国に追従して中国と敵対するのではなく、主体的な立場でアジアの発展を支えることを期待していることがはっきりした。

「すでに終戦から80年近くがたち、状況は変わりつつあります。日本は米国に追随するべきではなく、独立した外交政策を持つべきです。例えば、マレーシアは他国がいかなる体制であろうとも、対峙(たいじ)することなく、友好的になりたいと考えています。しかし、日本は中国とさえ友好的になることを米国に許されていません。日本は米国から自由になり、東アジアの声を世界に発信していってもらいたい」

 さらにマハティール氏は、国家間の対立は話し合いで解決すべきだと力説した上で、米国の政策を厳しく批判した。

「世界最大の武器製造国であり、武器取引国である米国にとって、戦争が起きることはよいことなのです。私たちは、米国がウクライナとロシアの間の戦争を誘発したことも知っています。そしていま、彼らは台湾と中国の間の緊張をあおっています。私は、常に米国は他の国々を挑発し、衝突させようとしていると考えています。もちろん、『米国は世界の民主主義を促進したいと考えているのだ』と主張する人もいるでしょう。しかし、ある国が民主的ではないからという理由で、戦争によって政権交代をさせるという考え方は間違っています。そうした米国のやり方は民主主義の原則に反しています」

 同時に、マハティール氏は日本が米国型の経済システムを模倣するのではなく、日本の文化に基づいた独自の経済システムに自信を持つことを願っている。同氏は

「日本経済も日本社会も、1990年代に米国のシステムを取り入れたときから転落している」

と指摘している。

2003年に発表された、マハティール・モハマド『立ち上がれ日本人』(画像:新潮社)

「日本人よ、いまこそ立ち上がれ」

 筆者が2015年6月に行ったインタビューでは、同氏は次のように語っていた。

「ドイツと日本とを比較してみましょう。いまドイツは、ヨーロッパでも世界でも大きな役割を果たしています。しかし、日本は米国に従属しています。日本には主体的な政策がありません。経営システムですら、米国のまねをするようになってしまいました。かつて日本には終身雇用もありました。ところがいま、日本には独自の政策がありません」

 すでに同氏は2003(平成15)年に著した『立ち上がれ日本人』(新潮社)においても、日本独自の経済システムの重要性や、アジアにおける日本のリーダーシップの重要性を強調し、

「日本に立ち止まっている時間はない。日本人よ、いまこそ立ち上がれ」

と訴えている。

 日本人はマハティール氏の声に耳を傾け、日本の産業界が主体的な立場でアジアに貢献することを心掛ける必要があるのかもしれない。