一般市民の視点や感覚を刑事裁判に反映する目的で2009年に始まった裁判員裁判は、21日で15年となる。殺人などの重大事件を対象に、有罪か無罪かを判断し刑罰を決めるため責任は大きい。近年、辞退率が高まっている中、市民は制度とどう向き合えばいいのか。志學館大学法学部の杉山和之准教授に聞いた。

 −裁判員制度の成果は。

 「裁判員として参加する市民は、裁判の仕組みや判断基準を知る機会になる。検察官と弁護士は工夫を凝らして裁判員に訴えかけ、裁判官も分かりやすく評議する。その結果、傍聴人を含めた全ての人にとって裁判が理解しやすくなった」

 「裁判員裁判は公判が始まる前に証拠などを整理する。被告人にとっては何の罪で法廷に立ち、何が争点なのかを再認識できるため弁解しやすくなった」

 −鹿児島では22年の裁判員辞退率は6割を超える。上昇傾向にあり対策は。

 「裁判員の対象事件は国民の関心が高く傍聴人も多い。導入時に比べたら企業の休暇制度も整ってきたが、それでも辞退者が多いのは仕事や個人の事情よりも精神的負担が勝っているからではないか」

 「裁判を身近に感じる機会を増やす必要がある。大学のゼミでは模擬裁判を取り入れている。実際に地裁の法廷を使ったり、現役の精神科医に尋問したりしている。自治体や学校とも連携して広げたい」

 −印象的な裁判は。

 「18年の日置5人殺害事件と19年の奄美女性殺害事件だ。日置は求刑通り死刑、奄美は無罪(求刑懲役20年)が言い渡された」

 「日置事件は被告人の責任能力が争点で、2人の鑑定医の意見が分かれた。以前は専門的な鑑定書を読み上げることが多かったが、パワーポイントを使った分かりやすい説明で裁判員らを納得させた。裁判員制度ならではの尋問だった」

 「奄美女性殺害事件は物的証拠が少なかった。東京電力女性社員殺害事件(1997年)などの冤罪(えんざい)事件と類似していたが、犯人と認定するには疑いが残るとした裁判員の判断は合理的だったと言える」

 −今後の課題は。

 「裁判員裁判は一審だけの制度で二審からは裁判官のみで審理する。そのため上訴されると、市民感覚を反映するという目的が十分達成されない恐れがある。被告人に不利になる控訴を禁止している国もある。検察の上訴のあり方は見直す余地があるのではないか」

 「事件に興味を持つだけでも被告人や犯罪に対する理解が深まる。なぜ罪を犯したのか、その人は今後、社会でどう生きていくのかという点に目を向けることは犯罪の抑止につながるだろう。裁判員制度は市民が支え、作り上げる必要がある」

 ▽メモ 最高裁によると、鹿児島地裁の裁判員裁判では、2022年までに裁判員1032人、補充裁判員357人の延べ1389人が選任され、187人に判決が言い渡されている。裁判員候補者の辞退は増加傾向にあり、09年は50%だったのに対し、22年は66%だった。



 すぎやま・かずゆき 1979年生まれ。茨城県出身。日本大学大学院法学研究科博士後期課程修了。専門は刑法。日本大学法学部非常勤講師、志學館大学法学部講師などを経て志學館大学法学部准教授。刑事責任能力論などを研究する。