国内では珍しい水平放任栽培で育てた「信州トマト工房」(箕輪町中箕輪)のトマトが現在、食べ頃を迎えている。(伊那経済新聞)

 水平放任栽培で育てられた木のようなトマトの枝と葉

 「夏のイメージのあるトマトだが、原種を調べるとまさに5月上旬の今が、最もトマトがおいしくなる季節。収穫量なのか、味なのか、何を旬とするかは人それぞれだが、味で言えば今」と同園代表の唐澤金実さん。箕輪町で1998年から水耕栽培設備による「水平放任」という、土を使わずブドウのように葉を横に広げて育てる方法でトマトを栽培する。

 「トマトはエクアドルが原産。標高が2000メートルほどあり、赤道直下に位置していて朝夕が涼しい土地。長野の5月ごろの今の季節がまさにトマトの味を最も引き立たせるのに適した時期。夏よりも甘いトマトができる」と唐澤さん。

 「木のように枝葉を広げる『水平放任栽培』は、主流である縦型栽培方法と比べて葉の面積が断然多くなる。葉の面積が増えることで光合成の効率が良くなり、実に糖がとどまり甘くなる。主流の栽培方法に比べて収穫量は減るが、おいしさを追及して水平放任を選んだ。他にも土を使わず、水と液体肥料の溶液で育てる水耕栽培を行い、溶液の濃度を調整し余分な水を吸わせないことで甘みを増す工夫をしている」とこだわりを明かす。

 以前はメーカーに勤務していたが、酪農をしていた父親が亡くなり、その土地を利用して農業を始めた唐澤さん。「当時トマトだけが右肩上がりに生産量を増やしていた。雑誌を読んでいた時にフルーツトマトの特集が組まれていて目に留まった。都内のデパ地下へ行きフルーツトマトを食べて衝撃を受けた。ニッチな市場に参入しようと決心し、千葉県で水平放任栽培をしていた農家へ学びに行ったり、本を読みあさったりした」と振り返る。

 「軌道に乗るまでに7年ほどかかった。それまではトマトが黒点根腐病になり何年も悩まされた。未経験でトマト栽培を始めたので、信州大学の先生に話を聞きに行ったり、図書館に行ったりして必死で勉強した。その頃、心身ともに疲弊していた時に山の草木の香りに癒やされ、『何て良い香りなんだろう』と思った。山はなぜ手入れをしないのに草木が枯れないのだろうと思い、菌についても猛勉強した。その知識が現在の水耕栽培に生かされている」と話す。「トマト栽培において重要害虫であるコナジラミの天敵であるオンシツツヤコバチやカスミカメを導入し、トマトの受粉もマルハナバチを放ち自然と受粉させている。自然に任せた方がトマトが甘くなる」

 同園では、糖度9度以上の「ルージュ・フルーツトマト」や糖度6度〜8度の「オールージュ・トマト」、糖度5度〜6度の「樹上甘熟トマト」と、品質維持のために季節によって品種を変えて糖度で分け販売している。

 「直売所では規格外品などもあり地元の人に購入してもらっている。贈答用としても販売しており配送も行っている。トマトはビタミンだけでなく、リコピンも豊富。リコピンは抗酸化作用などあるので、健康維持のためにも少量で良いから毎日トマトを食べてほしい。県外の人も直接食べに来てもらえたら」と呼びかける。

 営業時間は8時半〜17時半。