「長崎のうまい魚の未来をつくる」をテーマにした分散型自立組織(DAO)「おさかなだお長崎」が5月10日から12日にかけて長崎ツアーを企画し、漁業関係者らとの交流を図った。(長崎経済新聞)

 養殖いかだを見学する様子

 東急不動産ホールディングス(東京都渋谷区)とWeb3スタートアップ「MeTown」(東京都目黒区)、長崎から未来を探索する「FFF(Find Fish’s Future)プロジェクト」が発起人となって今年2月1日に立ち上げられた同団体。ブロックチェーン技術を活用したコミュニティー管理ツールを使い、明確な経営者が存在せず、コミュニティーのメンバーで意思決定を行いながら活動するDAOならではの多種多様な職業・出身地のメンバーが参加し、普段の生活では会うことができない人が集まる組織の中で協力しながら企画やアイデアを考え、実行していく「大人のサークル活動」として長崎の水産業を盛り上げることを目指す。

 初の長崎ツアーとなる今回。10日に長崎入りした10人ほどの参加者は茶わん蒸しや卓袱(しっぽく)料理で知られる「吉宗」で昼食を取った後、長崎市役所を訪れ市の水産関係者らと懇談。団体の取り組みを紹介した。グラバー園の観光を挟んで団体メンバーの永石一成さんが営む「旬菜ながや」を訪れ、長崎ならではの食を楽しみながら親睦を深めた。

 11日は早朝の競りに合わせて長崎魚市(長崎市京泊3)を見学。魚市関係者や地元スーパーの水産担当者らと懇談する機会を設け、意見交換などを行った。午後からは東長崎にある牧島を訪れた参加者ら。港から漁船に乗り込み、島の周辺で「ゆうこうしまあじ」「ゆうこうまだい」などの養殖を手がける雄昇水産の西元崇博社長や昌陽水産の長野陽司社長らの案内で両社の養殖いかだを見学した。

 港から船で5分ほどの沖合に浮かぶシマアジを養殖するいかだでは自動給餌装置を使った管理を行っていることから、餌が放出されると餌に飛びつく魚の水柱が上がり、参加者の歓声が聞かれた。次に少し離れたトラフグを養殖するいかだに移動。長野さんはいけすからトラフグをすくい上げ、かみ合いによる斃死(へいし)などを防ぐための「歯切り」などについて説明。大きく膨らんだトラフグに、女性参加者からは「かわいい」という声もあった。

 牧島と本土の水道に設置したいかだに移動すると西元さんがいかだからカワハギをすくい、参加者に見せた。西元さんらは昨年8月に橘湾一帯で起きた大規模な赤潮被害についても説明。「これまで経験したことがない規模の赤潮だった」と振り返り、「以前はトラフグ養殖を中心に30軒ほどあった養殖事業者も7軒に減り、養殖する魚種も肥育期間が長くリスクの高いトラフグだけでなく、シマアジやマダイなど増やしている。赤潮被害を受けて肥育期間が短いカワハギの養殖にもチャレンジしている」と現状を伝えた。

 昌陽水産で行っている復旧のためのクラウドファンディングも話題になり、長野さんは「養殖事業には10メートル四方のいかだ1つに数百万円から1,000万円、いかだ全体だと億単位での投資が必要になり、昨年の赤潮のような災害があると一気に全てが損失してしまうリスクの高さがあるからこそ、魚価が下がると廃業せざるを得なくなる」と話す。その場で支援する参加者もいたほか、「種苗の段階で魚を買って預託し、一緒に成長を見守り、育ったら自宅に届くような仕組みを作れないか」というアイデアも出た。西元さんと長野さんの好意でマダイとシマアジの刺し身の振る舞いもあり、さばきたての魚に舌鼓を打った。夕食ではバーベキュー懇親会を行い、12日に帰路についた。

 東急不動産CX・イノベーション推進室の岸野麻衣子さんは「長崎のメンバーや漁業関係者らと交流し、信頼関係を築いたことで今後の活動に向けてイメージできる機会になった」と話す。100人弱で立ち上げて3カ月でメンバーも126人に増え、今月21日にはワークショップの開催も予定するという同団体。「具体的な活動に向けてアイデアを煮詰めて行くとともに、活動とともに地域も拡大させ、発展させていくことができれば」と意気込む。