「世界ALSデー」の6月22日、難病や重度の障がいなどのため外出が困難な人が「パイロット」としてロボットを遠隔操作して接客を行う「分身ロボットカフェDAWN ver.β」(ドーン バージョンベータ)」の常設実験店舗が、日本橋ライフサイエンスビルディング3(中央区日本橋本町3)1階にオープンした。運営は分身ロボット「OriHime」(オリヒメ)の開発・提供を手掛けるオリィ研究所(同)とカンカク(港区)。(日本橋経済新聞)

 【写真】外出が困難な人が「パイロット」としてロボットを遠隔操作して接客

 同研究所は2012(平成24)年に設立。「人類の孤独の解消」をミッションとし、「たとえ寝たきりになっても会いたい人と会えて、仲間と共に働き、自分らしく生きられる社会」を作る実験を繰り返してきた。分身ロボットカフェはその具現化の一つで、「テクノロジーで自分の存在を運ぶことができるのなら、社会とつながり続けられるのではないか」との仮説の下、テレワークによる肉体労働の可能性と未来を実現させることを目指す。

 分身ロボットカフェの実証実験は2018(平成30)年以来、これまで期間限定で4回開催されてきた。今回の常設化は店員の安定雇用を促すだけでなく、他の接客業やオフィス出社など、就労につながる事例を今後も増やす狙いもある。常設実験店の開業に先駆けて3月から1カ月間実施したクラウドファンディングでは2156人が参加。目標の400%を超える4,458万7,000円の支援が集まった。

 敷地面積は300平方メートルで、うちカフェエリアは190平方メートル。席数は約70席。ホットサンドやスイーツ、スペシャルティーコーヒーなどをテークアウトおよびイートインで販売する。支払いは完全キャッシュレス。国内外在住の50人のパイロットが交代で「OriHime」を遠隔操作して、接客、給仕、バリスタの業務を担う。

 飲食エリアは、予約制のダイナー、バーと、予約不要のカフェテリアの3つのエリアに分かれる。ダイナーは、「OriHime」のパイロットとテーブルで話をしながらオリジナルフードやスイーツやドリンクを楽しめるフルサービスの席。自走型の「OriHime-D」が注文した商品をサーブする。バーでは、「テレバリスタOriHime × NEXTAGE」をパイロットが遠隔操作し、フレンチプレスで入れたコーヒーを提供。現時点では未定だが、不定期で「バー織姫」に変化し、夜の営業を行う実験的イベントも企画している。

 開業初日のパイロットを務めた、北海道在住のけいさんは「先ほどまでOriHime-Dで店内を回り、今はOriHimeに移って案内係をしている。瞬間移動ができるのでとても楽で、北海道からも勤務が可能。日本橋もぜひ訪ねてみたい」と話した。

 飲食スペース以外には、同店協賛企業のPRコーナーやカフェで提供するコーヒーやオリジナルグッズの販売ショップを併設。レンタルカウンターでは、「OriHime」を貸し出す。実際に足を運べない家族や友人とカフェの雰囲気を楽しんだり、日本橋散策を楽しむサービスも有料で用意する。

 店舗は大通りに面し、エントランスは広くストレッチャータイプの車いすでの入場が可能。オストメイト・介助ベッド付設のバリアフリートイレを設置するほか嚥下(えんげ)食にも対応し、ミキサー・チョッパー・シリコンスプーンなどの調理器具の貸し出し(要予約)も行う。併せて、ドリンクメニューに嚥下対応ドリンクをラインアップし、とろみ調整剤も提供する。

 仮説検証のスピードを上げるため、カフェのオープンに合わせ、5月にはラボと本社も同ビル内に移転した。見つけるまで100以上の物件を検討したという店舗は、「日本橋EASTエリア」の玄関口に位置する。老舗が残り交流が深いエリアでもあるため、毎朝声を掛けに来る近隣住民がいるなど地元との交流が早くも生まれているという。
  
 店名の「DAWN」は「絶望の夜を経ての暁」を表す。末尾につく「ver.β」は、ソフトウエア開発では「未完成」の段階を指す。「いつも同じサービスが保証された従来のカフェではなく、『未完成』を提供し続ける店舗として、お客様にも一緒に楽しんでいただきたい」とオリィ研究所代表の吉藤オリィさん。店内には接客スタッフのほか、技術スタッフが滞在し、カフェとしての快適さを追求しながら、日々生じる課題を同ビル階上のラボへ回す。

 吉藤さんは「今日だけでもたくさんの課題が見つかった。まずはこれらを一つずつ解決していく」と意欲を見せる。

 営業時間は10時〜19時。