全国から集めた退職メールを紹介する「退職のご挨拶(あいさつ)展」が現在、「SHIBUYA TSUTAYA(渋谷ツタヤ)」(渋谷区宇田川町)6・7階特設コーナーで開催されている。(シブヤ経済新聞)

 【写真】「ご挨拶(あいさつ)大賞」に選ばれた作品

 「定年退職」「結婚」「出産」「転職」など、人生の節目に実際に送った、またはこれから送ろうと準備している「退職メール」を全国から一般公募し展示する同展。企画を考えたのは、バラエティー番組や企業CMなどでナレーターとして活動する高橋あやなさん。きっかけは3年前、ナレーターを目指す傍ら、派遣社員として当時働いていた会社に届いた一通の退職メール。「定年退職を迎えられた方からのメールで、途中まではテンプレートに近い文面だったが、後半は退職後に家族とパン屋を営むことが書かれてた。しかも週末のみの営業で、なんて自由ですてきなんだろう」と驚いたと言い、「退職メールは、その人の生き様が垣間見えるノンフィクション作品」と強く感じたという。

 その着想はすぐには形にならなかったが、コロナ禍になって働き方に関心を寄せる人が増える中で、高橋さんは「いきなりテレワーク、働き方の多様化と言われて、きっと多くの人が戸惑ったと思う。東京にいなきゃいけない必然性もなくなり、どこで何をして、誰と生きていけばいいのだろう、と自分の生き方を見つめ直した人もいたはず。そういう時に他の人たちがどういう思いで働いて、どういう選択をして退職したのか、何かヒントになるのでは」と、今回の企画に至った経緯を振り返る。

 ウェブサイトやSNSなどを中心に今夏に応募を呼び掛け、1カ月間の募集期間で寄せられた応募総数は55通。今回の展示では、そのうち大賞や各審査員賞に輝いた8通を含む40通を採用したほか、元日本マイクロソフト業務執行役員の澤円さんらによる特別寄稿3通も掲出している。メールの宛先は「お世話になった皆さまへ」「○○事業部の皆さま」など仕事で関わった社内外や同じ部署、チームのスタッフに広く送信したもの、「店長さま、副店長さま、事務Sさんへ」「○○のかわいい後輩たちへ」など上司や先輩、後輩に向けたもの、「○○さん」など一個人に宛てられたものも多く見られた。

 会社・スタッフへの感謝や退社理由、これからの仕事や生き方などについて3000字を超える長文でつづったものから、「毎日ご飯ありがとうございました。お世話になりました」と社食の「おばちゃん」に向けた短文まで、文字数はさまざま。一通一通の中にその人と周りの人たちとの関係性や、仕事に対する思いがあふれ、テンプレートを使った内容は少なかった。「感謝の言葉だけではなく、会社や個人に向けた恨み節もいくつかあった」とバリエーションに富んだ作品が集まったという。

 中でも審査員の元お笑い芸人・ザブングルの松尾陽介さん、編集者のミネシンゴさんの2人が「印象に残る作品」として選んだのは、愛知県のSomeさん(39歳)が「K様」に送ろうと準備していた一通。「たとえ家族がいたとしても、そうでなかったとしても。ここが愛知県でも東京でも。Kさんと出会っていたら、必ず、好きになってしまっていたと思います――(一部抜粋)」と、退職メールの中で片思いを告白したもの。さらにコピーライターの阿部広太郎さんは、神奈川県のすしさん(28歳)が亡き先輩「○○さん」に送った一通を選出。「あなたが僕に残したことは、僕の世界に反映させます。だから、○○さんは酒でも飲みながら、天国から(地獄かもしれませんが)見ていてください――(一部抜粋)」と、本人には届かない退職メールに高い評価を与えた。

 「転職を勧めるものでも、働くことが美しいと言うつもりもない。仕事が嫌だなとか、何か満ち足りていないなとか……、このままでいいとは思っていない人も多いと思う。たまたま渋谷にふらっとやって来た人が、この展示に出合い、仕事の捉え方や世界の見え方が少し変わったら、その人のハッピーが増すのでは」(高橋さん)と来場を呼び掛ける。

 開催時間は10時〜20時。入場無料。10月10日まで。会場では展示作品をまとめた作品集(1,500円)も販売する。