明治の文豪、夏目漱石の住居後地に新宿区が設置した漱石山房記念館(新宿区早稲田南町7、TEL 03-3205-0209)で現在、「《通常展》テーマ展示『門』−夏目漱石の参禅−」が開かれている。(高田馬場経済新聞)

 漱石山房記念館 外観

 漱石は、1894(明治27)年末から翌年初めにかけて円覚寺(神奈川県鎌倉市)に参禅。同展はこれより130年を記念して、特に参禅の経験が最も反映されている小説「門」を軸に漱石と禅の関わりについて紹介する。「門」は、1910(明治43)年3月1日から6月12日まで「東京朝日新聞」と「大阪朝日新聞」に全104回にわたって掲載された。

 展示は「第一章 漱石と禅」「第二章 『門』に描かれた参禅」「第三章 若き雲水との交流」の3部構成。

 第一章では、先んじて参禅した友人、米山保三郎を取り上げ、漱石と米山の名が記された円覚寺の参禅名簿、「門」に登場する老師のモデルで禅の指導を受けた釈宗演筆の円相や書簡などを展示する。また、漱石の悩み多き20代の状況がうかがえる資料を示し、なぜ漱石が参禅したのかを探るとともに、「吾輩(わがはい)は猫である」「草枕」「夢十夜 第二夜」など「門」以前に書かれた作品と禅とのつながりを紹介する。

 第二章では、「門」に登場する建物や風景が円覚寺境内を写実的に描写したものであることを、小説の一節と円覚寺の写真とで紹介する。20代で漱石と出会い、後に漱石がかつて参禅の際に止宿した円覚寺の塔頭、帰源院の住職となる富沢敬道に宛てた漱石の書簡に見返し部分に津田清風の絵を入れて装丁した巻物なども展示する。

 第三章では、漱石が晩年に交わした書簡などを展示。20代だった富沢が漱石の死に際し妻の鏡子に送った手紙は、本展が初公開で、漱石が禅への関心を持ち続けていることがうかがえる重要な資料という。

 同展を担当した学芸員の鈴木希帆さんは「漱石が参禅した理由は推測の域を出ていないが、参禅名簿などの参禅の証し、宗演老師に関する資料などから、『門』にどう反映されたかを示した。漱石の作品は禅味を帯びていると表現されることがある。晩年から始まった修行僧たちとの交流までこの展示全体を鑑賞いただいた後、漱石の作品に登場する禅に関わる記述を改めて感じ取ってもらえれば」と呼びかける。

 開館時間は10時〜18時(入館は17時30分まで)。月曜休館。観覧料は、一般=300円、小・中学生=100円。7月7日まで。