毎月の返済とは別に元金の一部を返す「繰り上げ返済」。大きなお金が入ったら繰り上げ返済をして、住宅ローンの負担を減らそうと考えている人は多いのではないだろうか。

繰り上げ返済のタイミングによっては、より負担を減らすことにつながるが、実はいつでも繰り上げ返済をすればいいというものでもないようだ。そこで、家と住宅ローンの専門家・千日太郎さんに繰り上げ返済の基本と、より良いタイミングについて教えてもらった。

「返済期間短縮型」「返済額軽減型」の選び方

「繰り上げ返済には、『返済期間短縮型』と『返済額軽減型』という2種類があり、どちらを選ぶべきかは人によって異なります」(千日さん・以下同)

返済期間短縮型
毎月の返済額はそのままに、返済期間を当初より短くする方法。

返済額軽減型
返済期間はそのままに、毎月の返済額を当初より少なくする方法。

「『返済期間短縮型』は早く完済したい人が取るべき手法なので、ある程度返済の目処がつき、定年までに完済してしまいたいと考える人に向いた方法といえるでしょう。繰り上げ返済で大きな金額を使った後も変わらない額の返済を続ける必要があるので、金銭的に余裕がないと選択しにくい方法ともいえます」

一方、「返済額軽減型」は定年後も返済し続けるなど、長く返済し続ける想定をしている人に向いた方法とのこと。

「定年を超えても返済を続けるのであれば、現役のうちに『返済額軽減型』で繰り上げ返済をして、月々の返済額を減らし、定年退職した後の負担を軽くすることができます。また、月々の返済額が減ることで、手元に残るお金が増えるため、いざというときのために貯めておけるメリットもあります。安定的な老後を送るための選択の1つといえるでしょう」

繰り上げ返済していいのは「資産に余裕があるとき」

繰り上げ返済にあまり向かないタイミングがあるという。現在のように、金利が低い時期だ。

「低金利の時期はそもそもコストが低いので、『支払う利息のトータルを減らせる』という繰り上げ返済の効果があまり発揮されないのです。特に変動金利で借りている人は、金利が低いうちは無理に繰り上げ返済しないでいいでしょう。それよりも大きなお金は手元に残して、いざというときのために蓄えておいた方が、リスク回避につながりやすくなります」

繰り上げ返済をした直後に、病気を患ってお金が必要になるかもしれない。想定外のことに備えるためにも、様子を見てもいいというわけだ。

「金利が急に上がったタイミングであれば、繰り上げ返済で利息を減らす意味が出てきます。金利が上がることで返済が負担になるようであれば、手元に大きなお金があるときに繰り上げ返済をしてもいいでしょう」

金利が高めに設定してある固定金利の場合は、繰り上げ返済の効果も出やすくなるそう。

「ただし、固定金利であれ変動金利であれ、繰り上げ返済を行うのは、手元に大きなお金があるときに限ります。貯金を切り崩してまで繰り上げ返済を行うのは、住宅ローンの利息の軽減以上にリスクを増やす可能性があるからです」

例えば、子どもが大学受験を控えているとすると、繰り上げ返済で貯金を失ったことによって、学費のために新たなローンを組まなければいけなくなるかもしれない。住宅ローンより金利が高いローンであれば、金利を軽減させたはずが、かえって支払う利息が増えてしまうことになりかねないのだ。

「そう考えると、積極的に繰り上げ返済を考えるべき人は多くないといえます。差し当たり使う予定のないお金を遊ばせておくのは損だという人もいますが、想定外のアクシデントで支出が増えたり、収入が減ったりする可能性も否定できません。手持ちのお金がなくて、ノンバンクからキャッシング(借入)したときに課せられる金利は2〜20%と高金利だと知っておきましょう。将来新たに借りる可能性が考えられるようであれば、繰り上げ返済はしなくていいでしょう」

若いうちは繰り上げ返済より「貯蓄」を優先

特に注意が必要なのは、若い世代だという。早いうちに繰り上げ返済をすることで後々の負担が減り、ラクになると考えてしまいそうだが、「無理しなくてもいい」と千日さんは話す。

「20代、30代で住宅ローンを組んでいる人は、返済し始めたばかりで住宅ローン控除を受けている人がほとんどでしょう。住宅ローン控除は借入残高が多いほど恩恵を受けやすくなるので、繰り上げ返済をするのはもったいないといえます」

また、前述した子どもの学費のように、若いほどこれからお金が必要になる局面が多くなる。必要なときにお金を使えるようにしておくためにも、無理して繰り上げ返済をする必要はないのだ。

「住宅ローンは毎月決まった金額を返済していれば、債権者からは何も言われません。若いうちは早く返すことよりも、返済しながら貯金をする習慣をつけて、生活の基盤を作ることをおすすめします。そして、定年を迎えるタイミングでお金に余裕があれば繰り上げ返済をし、老後の返済額を減らすといったように、戦略的に返していくことが理想的です」

早く完済することに重きを置いてしまいそうだが、遠い未来だけでなく現在の生活も含めて総合的に考え、繰り上げ返済の時期を判断していけると良さそうだ。
(有竹亮介/verb)