画像提供:川瀬将義氏 メタバースプラットフォーム「cluster」内にて撮影

世の中の新しい動きに注目する連載「マネ部的トレンドワード」。この記事では、メタバース編の第2回として「メタバース普及の課題」を考えていく。

盛んに注目されるメタバースだが、近い将来、本当にこの技術が世の中を席巻しているのか疑問を持つ人もいるのではないだろうか。そこで今回は、あえてメタバース普及における課題を聞いてみたい。メタバースに大きな可能性があることは踏まえつつ、課題に焦点を当てる形だ。

ということで、デジタル技術の動向を調査するみずほリサーチ&テクノロジーズ デジタルコンサルティング部の川瀬将義氏に取材。上記の質問を投げかけた。

スマホの“次”として期待されるメタバースだが、課題もある

取材の冒頭、川瀬氏はメタバースが盛り上がる背景について、こんな私見を述べた。

「パソコンが普及して、その後スマホが登場しておよそ10年が経ちました。そろそろスマホの“次”が出てくるタイミングです。その中で企業が注目しているのがメタバースであり、VRやAR技術。未来のビジネスで有利に立ち回るためにも、いまのうちから動き出している状況ではないでしょうか」

この見解は、メタバースの概要や可能性について前回取材した加藤直人氏の考え(記事参照)とも重なる。

では、メタバース普及における課題や、壁があるとしたら何なのか。川瀬氏は「一般層にまで裾野を拡大できるかどうか」だという。

「現状、VRで本格的にメタバースを楽しんでいるのは、ゲーマーやデジタル感度の高い一部のユーザーが中心。しかし多くの企業は、メタバースが将来、SNSのようにたくさんの人がコミュニケーションする場になることを期待しているはずです。そこまで発展させるには、ゲームをやらない人たちにも裾野を拡大する取り組みが必要でしょう」

川瀬氏は「いまはまだ、メタバースは万人にとって便利なサービスとは言えず市民生活に大きな影響を及ぼさない」という。だからこそ、ゲーマーや先端技術が好きな人以外は、メタバースをやる動機が生まれにくい。きっと読者の中にも、それほど興味の湧かない人は多いのではないか。

こういった指摘につながるデータがある。メタバースといえば、VRデバイスを使って仮想空間に入ることが基本だが、LINEの調査によると、VRデバイスを日常的に使用している人はわずか5%だった(※)。

※2021年7月「LINEリサーチ、今と近未来の流行予想調査(第八弾・VR編)」

もちろん、今後は使用者が増えていくだろうが、仮にSNSのように大多数の人がメタバースで過ごす未来を考えるなら、VRデバイスを使って楽しむ風景が当たり前にならなければならない。5%の使用率をどこまで上げられるかはひとつのポイントだろう。

「VRデバイスの場合、ヘッドセットによる“疲れ”や“酔い”という障壁があるのも事実。また、端末の価格も下がってきたとはいえ、数万円はします。これらを超えてたくさんの人がVRに親しむ光景が実現できるかがカギを握るでしょう」

普及のために必要なのは「仮想の楽しさ」をライトに体験できるツール

「ユーザーの裾野拡大」という課題に対し、解決策を講じる企業も出ている。たとえば、スマホからメタバースを楽しめるサービスはそのひとつ。まずは気軽にアクセスできるスマホでライトユーザーを獲得し、メタバースの魅力を感じてもらう。そうしてVRデバイスで本格体験してもらう形だ。

「スマホを入り口にユーザーを獲得する際、大切なのは、メタバースを日常で必要な情報や遊びと結びつけることです。そうしなければ、数あるスマホコンテンツから、一般の方が隙間時間にメタバースをやろうという動機が生まれにくい。逆にその動機を作れれば、ユーザーが増えていく可能性も考えられます」

一方、メタバース普及のカギになるツールとして、川瀬氏は別のものに注目する。AR対応のスマートグラスだ。

ARとは「拡張現実」。VRが完全な仮想空間なら、ARは現実の風景にバーチャルの映像を重ね合わせる。一例として、スマートグラスをかけると、街中にデジタルのキャラクターや建物が浮かび上がるなど。川瀬氏は「現実の中に仮想が近づいてくる」と表現する。

ではなぜ、スマートグラスがメタバースの普及に重要だと考えるのか。

「メタバース普及に必要なのは、一般の方が『仮想の世界は楽しい』と感じて、その空間に興味を持つことです。しかし、最初からVRデバイスを使うのはライトユーザーにとってハードルが高く、一方でスマホのメタバースはその魅力を十分に味わい切れない懸念がある。その中で、まずはスマートグラスのARによって現実の中の仮想を手軽に楽しみ、そこから仮想の世界に興味を持って、VRによる完全仮想空間のメタバースへと進出する流れが自然ではないでしょうか」

たとえばスマートグラスをかけて、地方にいる友達と渋谷で待ち合わせをする。自分は実際に渋谷へ行き、友人は地方にいながらARで隣に映し出される。そうして一緒に渋谷を歩くのだ。あるいは、実在の街を舞台にしたバーチャルゲームを行うことも可能だ。

まずはARでライトに仮想を味わい、その後、より深い仮想空間をVRで体験する。スマートグラスは、いわばVRへと人々を誘う“導線”だ。

「スマートグラスはVRデバイスに比べて簡単にかけられるので、チャレンジのハードルは低いでしょう。一方、価格帯はまだかなり高いのも事実。とはいえ、もしこのツールが大きく進化すれば、一気にメタバースが世界で広がるかもしれません」

時間はかかるものの、そういった流れで普及に成功すれば、メタバースがSNSのような存在になる可能性もあるという。このほか、ひとつのイメージではあるが、「モノを必要としないビジネス、たとえば保険の営業などをメタバースに置き換えるケースも出てくるかもしれない」という。

出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

「なお、メタバース普及における別の課題として、権利関係や法整備といった問題も外すことはできません。空間上に造られた土地やオブジェクトの権利面を整理することが併せて必要です」

さまざまな課題について触れてきたが、こういった壁を越えたときには「メタバースが新しい人々の交流の場、新しいビジネスの場になるかもしれません」と川瀬氏。ということで、次回以降の記事では、ここで触れたポイントも踏まえながら、メタバース事業に取り組む各社に取材していく。

(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2022年7月現在の情報です