野村アセットマネジメントでは、毎月、世界経済や金融市場の注目点を投資環境レポートとしてお届けしています。

9月の投資の視点は、「欧州のスタグフレーション・リスクと金融政策」です。

<注目点>

●ユーロ圏のインフレ加速の中心は食品・エネルギーであり、欧州中央銀行(ECB)は利上げに消極的だった。しかし、インフレ加速がインフレ期待の上振れや賃金上昇率の加速に繋がる「二次的波及効果」を警戒し、ECBは利上げを決めた。

●足元でユーロ圏経済指標は下振れ、また、天然ガス不足によりユーロ圏がスタグフレーション(景気悪化と高インフレの併存)に陥るリスクが高まっている。

●このリスクが現実化した場合、ECBの対応は二次的波及効果の強弱次第となる。二次的波及効果が強まれば、ECBは利上げペースを加速せざるを得ないだろう。しかし、効果が強まらなければ、利上げペースを減速させる余地が生じよう。

利上げに消極的だったECB

ユーロ圏のインフレ率は2021年後半より加速していたが(図1参照)、欧州中央銀行(ECB)は2022年入り後も暫くは利上げに消極的だった。本レポートの3月号で指摘した通り、インフレ加速の中心が食品・エネルギーであったからだ。

ECBのラガルド総裁は、2月に「金融政策がパイプラインをガスで満たすわけでもない」と述べ、「我々には出来ることと出来ないことがある」と説明していた。供給要因で上昇する食品・エネルギーを中心とするインフレ加速を、金融政策で沈静化することは難しいと認識されていたわけだ。

インフレ加速がインフレ期待の上振れや賃金上昇率の加速に繋がるという「二次的波及効果」は警戒されていたが、この時点でその兆候は限定的であり、利上げを急ぐほどECBの警戒感が強まっていたわけではなかった。

二次的波及効果を警戒しECBは利上げ

ロシアによるウクライナ侵攻は、こうしたECBの姿勢を変化させた。

侵攻を背景とするエネルギーなどの価格上昇を受け、3月政策理事会で公表された経済見通しでは、2022年と2023年のインフレ率予測が、各々、5%台と2%台へ上方修正された(図2参照)。そして4月政策理事会では、「インフレ期待に上振れの兆候がみられる」という文言が声明文に加えられたほか、ラガルド総裁は「足元の賃金上昇率は低いが、これは遅行指標だ。今後どうなるかが重要であり、高インフレは賃金交渉に影響するだろう」と述べた。

これらは、ECBが二次的波及効果への警戒を強めたことを示唆しており、事実、ラガルド総裁は「我々が原油価格を下落させられるわけではないが、我々にはインフレ率を2%で安定させる義務がある」と述べ、供給要因が主導する高インフレだから利上げの必要は無いという判断からの軌道修正を図った。更に、4月末にラガルド総裁は「年内利上げの可能性が高い」と踏み込んだ。

その後、2022年1-3月期のユーロ圏妥結賃上げ率が加速したことや、ドイツの最低賃金が同年10月より大幅引き上げの運びとなったことなどが明らかとなり、6月政策理事会で公表された新たな経済見通しでは、2022年と2023年のインフレ率予測が各々、6%台と3%台へ上方修正された。二次的波及効果へのECBの警戒は一段と強まり、「7月理事会では0.25%ポイントの利上げを決定する意向」との文言が声明文に加えられた。

そして迎えた7月政策理事会において、ECBは0.50%ポイントの利上げを決定した。6月のインフレ率が前年比+8.6%と、コロナ禍前のピーク(2008年7月同+4.1%)の2倍以上の伸びを記録したことなどを受け、事前の宣言を翻す大幅利上げとなった。

2022年前半までユーロ圏景気は堅調

高インフレに対する警戒と比べると、景気下振れへのECBの警戒感は強くなかった。上述した3月と6月の経済見通しで、ユーロ圏のGDP成長率予測は相次いで下方修正されたが、それでも2022年・2023年とも2%を上回り、堅調な景気拡大が続くとの見方が示されていた。7月政策理事会にて、ラガルド総裁は「ウクライナ戦争や高インフレなどが景気を下押しする」と述べると同時に、「(コロナ関連制限の緩和・撤廃による)経済活動の再開やコロナ禍で積み上げた過剰貯蓄が景気の支えとなる」と説明していた。

確かに、2022年4-6月期まではこうした見方・説明が妥当だったとみられる。ユーロ圏のGDP成長率は年率2%台となり、市場予想を大きく上回る結果となった。本稿執筆時点で需要項目の内訳は未詳だが、コロナ関連制限の緩和・撤廃が個人消費などの追い風になったと推察される。

2022年9月号「投資環境レポート」の続きは、こちらからご覧ください。

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(提供元:野村アセットマネジメント)