住宅ローン返済年齢の高齢化が進んでいる。日本経済新聞(10月5日付朝刊)は「住宅ローン 完済年齢上昇 平均73歳、年金生活不安定に」の見出しで、定年退職後も住宅ローンを返済し続ける高齢者が増えていくことを報じた。なけなしの年金からローンを払い続けるリタイア生活こそ、現代のスタンダードとなりつつある。

 しかし、年金によるローン返済計画にも不安がつきまとう。ファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏が指摘する。

「不動産会社は“返せるかどうか”ではなく、“借りられるかどうか”で物件を勧める。そうして高い家を買えば、老後も借金が残るという現実を見なければならない。私に寄せられた相談例でも、60代までに住宅ローンを払い終える人は少数派で、70歳超えは当たり前。これまでの常識に捕らわれずに、年金生活と借金生活を両立させることを考えていく時代です」

 ではなぜ、老後の人生プランをめぐってこれほどの認識のギャップが生じたのか。「年金でローンを払うのは恥」という考え方は、終身雇用や年功序列型賃金を前提とした高度経済成長期以来の価値観を受け継いでいる。だが、「失われた20年」を経て、現在は非正規が増え、賃金も退職金も下がり、社会労働環境が全く違う。

 NPO法人『住宅ローン問題支援ネット』に寄せられた相談の中には、住宅ローンは返してきたが、マンションの管理費や固定資産税などが払えずに滞納となり、自宅を手放さなければならなかったケースがある。

 厚労省の今年の調査でも、65歳以上の高齢者が介護保険料を滞納し、不動産や預貯金を差し押さえられるケースが急増しており、2018年度は過去最多の年間ざっと2万件に達していた。

「退職金で繰り上げ返済」を考える人も多い。

「他に金融資産がない人に限って退職金の8〜9割を使って無理な繰り上げ返済をしているケースが目立つ。借金は減るかもしれないが、その後は年金頼みの綱渡り生活になります。あてにしていた再雇用の給料がコロナ禍で激減したり、病気で入院や介護が必要になれば、備えがないとすぐに生活が破綻してしまう。それがいいことなのか。

 むしろ、貯金がなければ退職金は残し、住宅ローンの借金は死ぬまで残ってもいいと割り切るくらいの考えで生活を優先させてはどうでしょうか。手元に蓄えがあれば非常時にも対応を考える余裕ができる」(深野氏)

「借金は死ぬまで残ってもいい」と聞けば驚くかもしれない。

 しかし、住宅ローンには団体信用生命保険(団信)というセーフティネットがある。多くはローンとセットで団信に加入し、万が一、返済途中で死亡したり、高度障害で働けなくなった場合、残債は全額保険で支払われる。実際には家族に借金は残らない仕組みだ。

 老後の資金計画を考えるとき、「年金で住宅ローンを返していく」という社会の大きな変化に対応していくのか、それとも「借金は残さない」という従来の発想を大切にするのかは、年金のもらい方から、働き方、健康や介護、自宅の処分や老人ホーム入居といった人生プラン全体にかかわってくるテーマだ。

 国の方針にも新たな変化が起きつつある。まず政府与党はコロナ対策として住宅ローン減税の特例(減税期間を10年から13年間に延長)を再延長する検討を始めた。減税期間は税金の一部が還付されて返済が楽になるが、特例は今年12月までに入居した者が対象だった。それを来年以降、新規に家を購入する者にも適用しようというものだ。

 その先にあるのがコロナで返済が困難になった者に対するローン減免だ。

 現在、大規模災害の被災者には住宅ローン破綻からの生活再建を支援する仕組みがあるが、金融庁や全国銀行協会、日本弁護士会などがその制度をコロナ関連で収入が減少した人にも適用する議論を始めた。

 たとえば、住宅ローンの残債は1500万円あるが、不動産価値は800万円しかない場合、返済が著しく困難であっても、売却すると多額の借金が残ってしまう。そこで、住み続けたい人は不動産価値分(800万円)を分割で支払えば残りの債務を“免除”するといった考え方だ。いわば“住宅ローン徳政令”といってもいい。

 そうした議論が始まったこと自体、コロナ後の人生100年時代に国民が新たな選択を迫られていることを物語っている。

※週刊ポスト2020年10月30日号