緊急事態宣言以降、住宅ローン破産の相談が増えているという。現在は金融庁の指導で金融機関が住宅ローンの一時返済猶予などの対応を取っているのでそれほど表面化していないが、コロナ禍で職を失った人は、新たな仕事が見つからなければ返済は難しい。年明け頃から、限界を迎えて自宅売却など住宅ローン破産に追い込まれる事例がもっと増えてくると見られている。

 その背景にあるのが、住宅ローン返済年齢の高齢化だ。日本経済新聞(10月5日付朝刊)は「住宅ローン 完済年齢上昇 平均73歳、年金生活不安定に」の見出しで、定年退職後も住宅ローンを返済し続ける高齢者が増えていくことを報じている。「年金で住宅ローンを払う」時代には、老後の資金計画全体の練り直しが欠かせない。

「年金で返済」で生活を楽にしたいなら

「早く住宅ローンの残高を減らしたい」と考えるのは、年金生活でローンが残れば、生活が苦しくなるからだ。それなら、年金でローンを払いながら、他の出費を抑えて家計を節約することで十分カバーできる。

 マイカーを手放し、固定電話を解約、携帯の料金プランを見直す。中でも効果が大きいのが生命保険の解約だ。ファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏が指摘する。

「団体信用生命保険に加入していれば万一の時も借金は残らない。子育てが終わった世帯であれば、生命保険(死亡保障)は思いきってやめてもいい」

 マイカー、電話、生命保険をやめて60歳から毎月の出費を2万円減らすことができれば、節約額は20年間で約500万円だ。住宅ローンを500万円繰り上げ返済するのと同じ家計効果になる。

年金は「繰り下げ」は「繰り上げ」か

「年金で住宅ローンを払うのだから、70歳まで年金を我慢して働き、繰り下げ受給で毎月の年金額を増やそう」

 そう考える人も多いだろうが、発想が逆だ。NPO法人『住宅ローン問題支援ネット』の代表理事でファイナンシャルプランナーの高橋愛子氏はこう指摘する。

「年金でローンを払っていく場合に大切なのは、安定した資金計画を立てることです。できるだけ長く働きたいのはわかるが、コロナで高齢者の雇用環境は不安定で給料収入はあてにできない。

 例えば、返済期間延長で毎月の支払額を減らしたうえで、夫婦の年金のうち妻の年金分を返済に回す。夫の定年に合わせて妻が年金を繰り上げ受給する方法もある。そして夫の年金を生活費にあてる。働いて稼ぐ分はプラスαと考えて計画を立てておけば、いざ、仕事がなくなってもローンが払えないという事態を防ぐことができるでしょう」

自宅を処分するしかなくなったら

 いよいよになれば「自宅を処分」すればなんとかなる。その考えは甘い。

「いまはコロナ禍で苦しい人が多いが、金融機関と借り換えや条件変更を交渉し、できるだけ売却を踏みとどまったほうがいい。ポイントは自宅を売却しても借金が残るオーバーローンになっているか、逆に売却すれば現金が残るアンダーローンかです。

 自宅の不動産価値が高い後者であれば、売却も含めて選択肢が広がる。また、住宅金融支援機構には『シルバー返済特例』制度がある。70歳以上で返済が困難な人が対象ですが、毎月の返済は利息分だけで住み続けることができるし、残債は本人が亡くなったときに自宅売却で清算されます。赤字でも相続人に請求されることはありません」(同前)

 民間銀行から借りている場合も、適用条件は厳しいがリバースモーゲージ(※注1)やリースバック(※注2)といった似た仕組みがある。

【※注1/自宅を担保にして、一括や年金形式で金融機関から融資を受けることができる高齢者向けのローン制度。契約者の死亡時に持ち家を売却してローンを返済する】
【※注2/自宅を第三者に売却し、売却先と賃貸借契約を結んで、元の所有者がそのまま住み続ける仕組み】

 年金で住宅ローンを払う時代には、まず「家は子孫に残すもの」という考え方を捨てることで、人生設計の自由度が増すのかもしれない。

※週刊ポスト2020年10月30日号