人生の後半戦の正念場のひとつが「親の死」だ。父や母が亡くなった後、悲しむ間もなく、待ち受けるのが「おひとりさま」になった親を巡る問題である。遺産相続を巡って子供たちが骨肉の争いとなることもある。

 群馬県の自営業男性(48)は3年前に父を亡くし、72歳の母が残った。男性は実家近くに住み、たまに顔を出して両親の面倒を見ていた。

 地元の優良企業の役員だった父親にはそれなりの資産があり、両親は一戸建てに夫婦で暮らしていた。

「父の死後、母をひとりにできず、私が家族を連れて同居することを弟ふたりに提案しました。私が母の面倒を見る代わりに実家を受け継ぎ、父の遺産のうち預貯金のみを兄弟で分配する約束を交わしたんです」

 ところがしばらくすると弟らが約束を反故にし、「実家の相続分を分割すべきだ」と言い出した。

「どうも弟たちの妻が『自分たちにも相続の権利がある』と言い張ったようです。母の面倒を見るのは、『長男なんだから当たり前だ』という態度で、財産だけよこせとの言い分に腹が立ち『それならおふくろの面倒を見ろ』と言ってしまった。

 それを知った母が落ち込んで『私は施設に行く』と言い出した。最終的に最初の約束通り預貯金のみ分割することになったが、母は私の妻が遺産を欲張ったと思い込み、今も家の中がギクシャクしています」

 千葉県の50代女性は若い頃から苦労して働きながら親に仕送りしていたが、その中から親は弟に生活費を渡していた。さらに弟が家を建てる際は、親がまとまったお金を援助したという。

 その後、母親が先に亡くなって父親が残された。この女性から相談を受けたファイナンシャルプランナーの小谷晴美氏が語る。

「女性としては、親から弟に渡ったお金はもともと自分のものとの認識があり、父親も女性と同じ認識だった。そこで、『あなたにはお金を貸しているようなものでしょう。相続の時は少し考慮してね』と弟に伝えました。

 しかし弟は『そんなの知ったことか』と主張し、きょうだい仲が決定的に悪化してしまった。それから認知症とがんを患った父親の介護を女性が一手に引き受け、最後は老人ホームに入所させて看取りました。しかし弟は父親の葬式にも参列しなかったうえ、遺産相続だけは弁護士を立てて要求してきた。その際の女性の怒りようはすさまじかったですね」

 小谷氏が続ける。

「両親が元気なうちは家族の諍いがないように見えても、どちらかが亡くなって残された親が弱ると『遺産』や『相続』という言葉が脳裏をよぎり、互いの配偶者を巻き込んでの争いになりやすい。これは誰にでも起こり得ることです」

※週刊ポスト2021年4月16・23日号