父、あるいは母が亡くなった後、「おひとり」になった親を心配するがゆえ、良かれと思ってやったことが、後になって思わぬ悲劇を招くことが往々にしてある。ひとり身の老親の介護で疲弊してしまう例は枚挙にいとまがない。

 たとえば、介護を家族で担おうとするあまり、離職を余儀なくされるケースがある。長野県にある実家の父が亡くなり、母が残された元会社員(66)が振り返る。

「実家でひとり暮らしになると、母が徘徊するようになりました。兄弟会議を開いたものの誰も母の世話を引き受けず、当時50代だった私が早期退職して面倒を見ることにしました。

 しかし話し合いで納得したはずの妻が直前になって、『あなたが勝手に決めたことなので、私は関わりません』と言い出して、私が単身、実家に戻ることに。介護の負担に加えて、収入がないので貯金を食いつぶす暮らしになりました。その後、認知症が悪化した母は病院で亡くなりましたが、私は肉体的にも精神的にも経済的にもヘトヘトに疲れ果てました」

 淑徳大学社会福祉学科教授の結城康博氏が語る。

「認知症が軽度ならそれほど支障はありませんが、徘徊や火の不始末、食べ物でないものを口に入れるなど命の危険につながる行動を取るようになったら、できるだけ施設入所を考えるべきです。無理をして在宅で介護すると昼夜が逆転して生活や仕事に支障が生じ、共倒れになりかねません。夫婦のどちらかが亡くなると認知症が早く進行することが多く、在宅介護の負担が重くなりがちな点にも注意してほしい」

 それ以外にも、在宅ひとり親の世話には大きな落とし穴がある。子にとって快適な環境が親にとっても過ごしやすいとは限らない。そのボタンの掛け違いから、不幸が生じることもある。都内に住む54歳会社員が語る。

「父親をがんで亡くし、田舎にひとりで住む母を都内に呼び寄せました。できるだけ快適な暮らしをしてほしいと思い、マンションを用意しましたが、戸建てに住んでいた母にとってマンション暮らしは想像以上のストレスだったようです。サンダル履きでサッと家から出られないことや必ずエレベーターに乗らなければならないことに耐えられず、1年足らずで実家に帰ってしまいました。2度の引っ越し費用も、マンションの家賃も無駄だったと思うと情けなくて……」

 かといって、住み慣れた家で暮らし続けたいと希望するひとり親のサポートにも困難が伴う。築年数が経過した家で高齢者がひとり暮らしをするとなれば、転倒防止のためのリフォームなどに費用がかかる。近くで様子を見てくれる親戚や知人、信頼できるかかりつけ医などがいるとは限らないし、訪問介護や訪問看護などの介護保険サービスを利用するにしても、上限額を超えれば自己負担が膨れあがっていく。子供が通いで面倒を見ようと思っても、遠方であれば、時間も労力も際限なくかかる。

 母に先立たれた父の遠距離介護を経験した愛知在住の元銀行員(68)はこう話す。

「岐阜の実家までは、高速を飛ばしても片道1時間以上かかるので、毎日通うのはさすがに難しいと思い、ヘルパーさんを頼むことにしました。これで負担が減るかと思いきや、毎日のように父親から電話がかかってくるようになったんです。

 最初は“知らない人を家に上げるのは気が引ける”といった内容だったのですが、そのうち“あのヘルパーは勝手にタンスを物色してお金を盗んでいった”とか言い出すようになった。妄想だとわかっていても、かわいそうで放っておけず、時間を見つけては実家に帰るようになった。なんのためにお金を払ってヘルパーさんを頼んだのかわからなくなり、本末転倒でした」

 前出・結城氏はこう指摘する。

「介護サービスでヘルパーやデイサービスを頼んだとしても、結局は子供が身の回りの世話で1か月に1〜2回は実家に戻ることになるケースが多い。ヘルパーやケアマネからは頻繁に連絡が入り、帰省のための交通費や仕事の調整のための負担も大きい。遠距離介護は想像する以上に大変だと覚悟しておくべきです」

※週刊ポスト2021年4月30日号