父や母が亡くなった後、子供世代を待ち受けるのは、「おひとり」になった親の介護に関する問題だ。親を心配するがゆえ、良かれと思ってやったことが、トラブルの原因となってしまうこともある。ときには、自分で背負おうとせずに、介護のプロに任せることも重要だろう。

 ひとり親を介護する際、大きな“影響力”を持つのが「身内の目」だ。元公務員の男性(63)は実家の父が他界し、母がおひとりになった。実家近くに住む妹に母の状況を尋ねると、「私がたまに顔を出しているから大丈夫」と言われて安心していたが、ある日突然、親戚から電話があり、こう怒鳴られた。

「お前の母さんは近所を徘徊しているぞ。親の面倒も見られないのか!」

 男性が振り返る。

「母が認知症になったけど、家族が誰も面倒を見ていないとのことでした。慌てて妹に連絡すると、母に会いに行っておらず、たまに電話をするだけだと白状しました。それではダメじゃないかと強めに文句を言うと、『そこまで言うなら、お兄ちゃんが帰ってきて面倒を見てよ。長男でしょ!』と逆ギレされた。私もついカッとなり、『わかった。もうお前には頼まない。俺が面倒を見る!』と怒鳴ってしまいました」

 それから、仕事が休みの日は実家を訪れ母の世話をした。あまりの大変さに妹の手を借りたい時もあったが、意地になってひとりで介護を続けた。

 認知症が進行した母は息子の顔がわからなくなって「ご苦労さま」と言うだけで、最後は施設に入って生涯を終えた。

「子育てには成長する楽しみがありますが、認知症となった身内の介護は先が見えず、逃げ場もありませんでした。もっと早く介護のプロに任せるべきでしたが、親戚の目や妹に対する意地もあり人を頼ることができず、自分で自分の首を絞めてしまいました」(同前)

 新婚で母を介護することになった歌手の湯原昌幸氏(74)も同じ意見だ。

「お袋をすぐ施設に入れられなかったのは、親戚から『親ひとりの面倒も見られないのか』と言われるのが嫌で、極限まで我慢したからです。親戚の目を気にせず、施設に預ける、もしくは親戚に頼って介護の負担を分担するやり方もあったかもしれない」

 どうしても、「親の面倒は子供が見るべき」という風潮はある。だが淑徳大学社会福祉学科教授の結城康博氏は、「そんな声は気にしなくていい」と強調する。

「親戚などの手前、無理をしてでも自力で親を介護しようとすると、肉体的にも精神的にも疲弊して追い詰められ、最悪の場合、自分の親に手をかける介護殺人が起きてしまいます。いまだに『施設に入れるのは親不孝だ』という声がありますが、悲劇を未然に防ぐためにも、自分と家族の生活を優先的に考えて、無理をしない範囲で親の面倒を見るべきです」

 誰にとっても難題で、なかなか正解が見つからない在宅ひとり親問題。それでも、経験者が教える「やってはいけないこと」を通して、「やるべきこと」が見えてくる。

※週刊ポスト2021年4月30日号