老後の生活において、「お金」と「健康」は何より重要だ。健康不安の1つや2つ抱えている人も少なくないだろうが、不安を払拭したいばかりに高額医療を選択して、後悔に苛まれる人もいる。愛知県在住の60代後半の男性はこう話す。

「早期の胃がんが見つかり、内視鏡手術(ESD=内視鏡的粘膜下層剥離術)を受けました。主治医に『見えるがんはすべて取りました』と言われたが、『再発・転移』のリスクを説明され、不安になってしまった」

 男性は自分で治療法を調べるうち、血液中の免疫細胞を増やし体に戻す免疫療法の存在を知った。

「専門クリニックを訪れたところ、『免疫療法は目に見えない小さながんも攻撃する。自分の免疫細胞を使うので副作用もない』と説明されました。そこで主治医には告げず免疫療法を始めた。最初の治療を受けた後、『別の療法でもう1クール受けたほうがいい』と言われ、合わせて500万円以上を支払いました」

 高額な治療ほど“効く”のではないかと思うのが人情だが、実際には全く逆というケースも少なくない。国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎医師はこう指摘する。

「この患者の場合、早期の胃がんなので、内視鏡手術で十分だった可能性が高い。内視鏡手術や抗がん剤治療などは、十分なエビデンス(科学的根拠)があると認められているから『標準治療』となり、保険が適用されて費用負担は限定的で済む。一部の免疫療法など、高額な自己負担が必要な治療法は、現時点で標準治療に採用するに足るエビデンスがないということ。それを理解して、患者も判断をする必要がある」

 しかも高額な費用負担は、親子の資産を削っていくことになる。70代前半の男性はこう話す。

「早期の肺がんが見つかり、手術は怖かった。息子が探してくれた病院の医師に相談すると、重粒子線治療という選択肢があると言われました。治療費は300万円だったが、家族も勧めてくれたので治療を受けました。結果、がん細胞は死滅したものの、2年後に再発し、さらに300万円が追加でかかった。子供にある程度の財産を残せると思っていましたが、かなりの誤算です」

 前出の一石医師はこう話す。

「重粒子線治療は、がん細胞をピンポイントで攻撃し、正常細胞へのダメージが少ないのが特徴です。先進医療の認定を受けていますが、高額療養費制度の適用外だから再発や転移があれば、そのたびに高額な治療費がかかる。とくに高齢患者は、中途半端に調べて“最新の治療”に飛びつくのではなく、限られた資産からどこまでお金をかけるかを考えるのが望ましい」

 そのためには、医師と納得がいくまで相談を重ねることが重要になる。

※週刊ポスト2021年5月21日号