中国本土株式市場では5月中旬以降、リチウム電池関連銘柄が急騰している。寧徳時代(深セン創業板、300750)は世界最大級のリチウム電池メーカーでこのセクターを代表する銘柄だが、株価は5月14日の場中で安値343.17元を付けた後、上昇に転じ、5月31日の終値は434.1元。この間の上昇率は26.5%で、過去最高値を更新した。

 寧徳時代は、日本人が売買できない創業板銘柄だ。日本人でも投資できる銘柄を探すと、材料として使われる電解液などを製造する広州天賜高新材料(002709)が同じ期間、同じ条件で55.2%上昇、リチウムイオン隔離膜(セパレータ)などを製造する雲南恩捷新材料(002812)が42.9%上昇、負極などを製造する上海璞泰来新能源科技(603659)が38.5%上昇している。

 株価急騰の主な要因は、アメリカの政策情報である。バイデン大統領は5月18日、ミシガン州にあるフォード・モーターの電気自動車工場を視察。自動車メーカーは海外で電気自動車やその中核部品となるバッテリー(リチウム電池)を生産するのではなく、アメリカ国内で設備投資を行い、国内で生産すべきだと訴えた。電気自動車のコア部品であるリチウム電池の生産で中国に大きく後れを取っていると危機感を露わにしたようだ。

 アメリカ上院財政委員会は5月26日、アメリカ国内で組み立てられた電気自動車の購入に関する減税規模の拡大などを盛り込んだ「クリーン・エナジー・フォー・アメリカ」法案の審議を通過させた。

 まだ法案の段階ではあるが、市場が予想していた以上の積極的な支援策であり、グローバルで新エネルギー自動車の開発競争が加速するといった思惑から中国本土の関連セクターが物色されたようだ。

中国に対抗する目的の政策だが…

 バイデン大統領は電気自動車開発で中国に負けないと発言しているが、産業の空洞化が極限まで進んでしまったアメリカにおいて、モノづくりで挽回するのは簡単ではない。

 そもそも、リチウム電池業界は、寧徳時代やBYDといった中国勢が強いとはいえ、日本のパナソニック、韓国のLG化学、サムソンSDI、SKイノベーションなども、必死に設備投資を続けており、業界内の競争は厳しい。いくら基礎技術の高いアメリカ企業であっても、新規参入してすぐに利益を上げるのは簡単ではない。

 リチウム電池は正極材、負極材、電解液、セパレータといった主要材料に加え、金属箔や、バインダー、添加剤など関連部材は少なくない。これらの材料は中国を含め主にアジア企業が大きなサプライチェーンを形成する中で製造されている。いくら中国の電池メーカーだけを排除したとしても、広範な関連部材メーカーまですべての中国企業を排除するのは極めて難しい。

 そうした背景があるため、中国に対抗する目的でバイデン政権がアメリカ国内の電気自動車製造、あるいはリチウム電池製造のための設備投資を刺激しようとしても、中国企業を排除するどころか、業界全体の成長加速によって中国企業にビジネスチャンスを与えてしまうことになる。関連する中国企業の株価急騰はそのことを物語っている。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。