きれいに片づけられた和室、座いすの横には、物入れ代わりに置かれている1つの段ボール。よく見るとそこには無数の穴が開いていた──。大阪府の会社員・山内小代子さん(52才・仮名)は夫と、夫の80代母親との3人暮らし。義父の死後、義母の口数が少なくなったことが気がかりだったが、自身も夫もフルタイムで働く忙しい中、必ず夕食は共にするようにしていたが、義母の異変に気がつくことはなかった。

「ある日、たまたま入った義母の部屋で、見つけたのが古びた段ボールでした。義母は鉛筆で絵を描くのが好きな人で、普段は部屋にこもってよく写生をしていました。その義母が、座いすに座ってテレビを見ながら、無意識に段ボールにブスブスと鉛筆を突き刺して穴を開けていたんです。それに気づいたとき、私は初めて義母の寂しさに気づきました。

 ご飯を一緒に食べて一つ屋根の下で暮らしていても、特にすることもしゃべる相手もいない寂しさは、ぬぐえないのでしょうね。気づけなくて申し訳なかったと、私は声を殺して自室へ戻って泣いてしまいました」(山内さん)

 2020年12月から2021年1月にかけて、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの60才以上を対象に実施した内閣府の国際比較調査では、「家族以外で相談や世話をしたり、されたりする親しい友人がいるか」との質問に対し、日本の高齢者の31.3%が「同性、異性のいずれもいない」と回答、4か国で最大の割合であり、日本の高齢者の社会的孤立が浮き彫りになった。在宅医療や看取りに詳しい立川在宅ケアクリニック院長の荘司輝昭さんが指摘する。

「身近に家族がいたとしても孤独を感じることは少なくない。大事なのは、意味のある関係を築けているかどうか。同居でも家族が自分のことを気にかけていないと孤独を感じるし、離れて暮らしていても電話やメールでまめに連絡があれば一緒に住むだけの関係よりも心が満たされるという人は多いです」

 人は、人と触れ合うことでオキシトシンという“幸せホルモン”が分泌される。このオキシトシンには健康を促進する効果があるという。しかし、高齢者は、家族と同居することそのものが負担になる可能性もある。精神科医の樺沢紫苑さんが話す。

「オキシトシンは心の交流があって分泌されるため、子供や孫と同居できたとしてもお年寄りが邪魔者扱いされてしまえば、かえってストレスになります。表立って邪険に扱われなかったとしても本人が『子供の世話になっている』という罪悪感を持つことも、ストレスのもとになります」

 実際、家族と同居しながらも孤立状態で死を迎える「同居孤独死」も社会問題となっている。ならば、金銭的な余裕があり至れり尽くせりの施設に入ることができた人は、どう感じるのか。荘司さんは「何不自由なく見えるシニアの中にも孤独を感じる人は多い」と言う。

「豪華な高齢者施設に入所した人からよく聞くのは、利用者同士で現役時代の肩書を張り合い、表面的な関係しか築けないケースです。周囲からはうらやましく見えても、本人たちは意外と満たされていないことが多いのです」(荘司さん)

 人と接すること自体より、心と心の触れ合いがあるかどうかが重要なのだ。

※女性セブン2021年6月24日号