企業で勤めるにあたり、働き方から社内行事の参加まで、会社それぞれに様々なルールがあるだろう。今年は衆議院選が予定されているが、例えば社内ルールとして「社員に特定の党へ投票するよう指示する」ことは許されるのだろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。

【相談】
 ある団体に採用されました。先日、先輩職員から「この団体では、国政選挙のときに組織票が仕組まれる。秋の衆議院議員選挙の際は、上司より組織票を頼まれるよ」といわれました。でも、選挙は有権者の自由が反映されるべきですし、上司が組織票を強要してくるのは、間違っているのではないでしょうか。

【回答】
 衆議院議員のような公選公務員の選挙運動は、公職選挙法が規制しています。選挙運動とは、特定の選挙で、特定の立候補者を当選させる目的で行なう「直接または間接に必要かつ有利な周旋、勧誘若しくは誘導その他諸般の行為」を指すため、大変広い概念といえます。

 この選挙運動は、立候補届け出以後でないとできません。それ以前に、選挙運動をすると事前運動になり犯罪です。もっとも、選挙を前提としない後援会活動などは選挙運動ではないとされ、政党の政治活動は自由であり、直接政党への投票を依頼することなどを別にして、制限されません。また、ポスター張りのアルバイト活動は当選目的ではないので、選挙運動をしたことにはなりません。

 選挙運動は、選挙事務の関係者、裁判官などの特定の公務員や未成年者以外は誰でもできます。公務員の場合、職務上の指揮命令権や人事権を利用して、部下に投票させるなどの地位利用による選挙運動が禁止されていますが、それ以外の団体では、こうした制限もありません。従って、選挙運動期間中であれば、勤務先の団体が選挙運動をしても違法ではありませんし、上司から投票依頼を受けても問題にできません。

 しかし、憲法では成年者の投票を保障し、「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない」としています。あなたには投票依頼に従う義務はなく、投票内容を話す必要もありません。選挙運動への参加を求められた場合でも、選挙運動は労働契約の目的である業務ではないので、業務として命じられたとしても拒否でき、解雇されても無効となります。

 ただし、雇用契約時の条件明示書中に、選挙運動への協力が業務としてあれば別です。その場合には、仕事として割り切るか、信条に反するなら辞めるかです。

【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。

※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号