SNSでの暴言や悪口が大きな騒動に発展するケースも多い昨今。特定人物への誹謗中傷が公然と行われれば、その人物から名誉毀損で訴えられたり、侮辱罪に問われたりする可能性もある。では、名誉毀損や侮辱は死亡した人物にも適用されるのだろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。

【相談】
 気になっています。それは“紀州のドン・ファン”と呼ばれていた人物の殺人事件で、今もメディアは彼をそう表現していること。いくらご本人が生前、そのように名乗っていたとはいえ、死後もメディアがよくないイメージの渾名を使うのはおかしいと思います。死後であっても、名誉毀損は成立しますか。

【回答】
 ある人物の名誉を毀損する報道がされた場合、当該人物に対する不法行為となり、その受けた精神的苦痛には慰謝料や謝罪広告の請求ができます。

 しかし、死後の名誉毀損は場合を分けて考える必要があります。すでに当該人物が亡くなっていれば、名誉毀損報道による不利益を受ける人物、つまり、被害者は生存していないので、請求のしようがありません。死んでいる人は、民事的には何もできないのです。

 それでも、刑法230条は「人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とし、生存者に限ってはいませんから、死者に対する名誉毀損も犯罪になります。

 ただし、死者の場合は虚偽の事実による名誉毀損をしたときにだけ処罰されます。また、著作権法では著作者が死亡した後でも、名誉毀損ではありませんが、著作者人格権という一定の権利を侵害すると罰金により、処罰されることもあります。このように特別な定めがない限り、死者の立場で保護される人格的利益はありません。

 他にも、死者に対する名誉毀損や侮辱が同時に遺族などに対する名誉毀損等になる場合には当然、名誉毀損の不法行為が成立します。

 そうした場合ではなくても、死者の名誉が毀損されると、遺族は傷つきます。直接遺族の名誉を毀損しなくても、遺族の死者に対する敬愛追慕の情が侵害され、その程度が社会通念上、我慢することができないほどひどい場合には、遺族に対する不法行為が成立すると考えられています。よって、死者であれば、何をいってもよい、ということにはなりません。

 ただ、紀州のドン・ファン氏は自ら“ドン・ファン”と自称していたので、同氏の遺志に反することにはならないと判断します。

【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。

※週刊ポスト2021年8月13日号