いまや数社しか生産していない直列6気筒ガソリンエンジン。しかも、そのほとんどが電動デバイス付きである。さらに国内仕様で純ガソリンエンジンとなれば、実はシルキー6と呼ばれるBMWの一択なのだ。(Motor Magazine2021年11月号より)

直列6気筒エンジンは今もBMWブランドの牽引役だ

その昔(といってもある程度の生産加工技術が確立されてからのことだが)、高級車にはおしなべて直列6気筒エンジンが搭載されていた。ロールスロイス然り、ベントレー然り。クルマ好きの読者諸兄には言わずもがなかもしれない。振動特性にもっとも優れ、高性能も出しやすかったからだ。

レシプロエンジンにおけるピストン運動は仕組み的にいくつかの問題点を抱えている。中でも悩ましかったのは二次振動(斜めに傾きながら上下動するコンロッドの角度が上下工程で違うことによって生じる振動)と偶力(互いに反対を向いた力によって生じる、回ろうとする力=偏心力)の発生であった。

この両方の発生を抑えることができたマルチシリンダーの直列6気筒エンジンが、もっともスムーズにピストン運動を回転運動に変える方式として歓迎されたのである。そしてもちろん、ここからクルマ好き垂涎というべき究極のエンジンも誕生する。直6をVの字に組み合わせたV12エンジンだ。

それはさておき超高級車の心臓部がアメリカ市場を意識した8気筒エンジンや贅沢な12気筒エンジンへと移行したのちも、生産性にも優れたストレート6はボリュームゾーンを担う高性能エンジンとしても採用され続けた。たとえば日本においては、トヨタや日産といった大メーカーのミッドサイズクラス以上において長らくストレート6が積まれていたし、海外に目を向ければドイツのメルセデス・ベンツとBMWに代表されるプレミアムブランドにおけるそれは、パフォーマンスの象徴として語り継がれてきた。

とくにBMWにおいては「シルキー6」というフレーズを今さら引き合いに出すまでもなく、直列6気筒エンジンの存在そのものがブランドの魅力であった時代もあったし、今なお積極的にストレート6を搭載するほとんど唯一のメーカーとなっている。

ではなぜ直6は廃れてしまったのか。幾つかの理由を挙げることができるだろう。ひとつには車体の小型化が進みエンジン横置きの前輪駆動車が増えたこと(逆にいうとFRが少なくなった)、そこからFF車のプレミアム化が進んで技術的に課題の多かったV6が進化して搭載されるようになったこと、さらには長い縦置きエンジンには衝突安全上の問題があったこと、近年では過給によるダウンサイジング技術がいっそうの進化をみせた結果、直4ターボエンジンでも6気筒と同等のパフォーマンスを実現できるようになってもはや無用の長物と思われてしまったこと、などが主な理由だ。

直6の見直し機運高まるも時代の趨勢は再び直4へ

ところが最近になって再び、直6エンジンが見直されるようになった。衝突安全に対処する技術の進化や、ホットサイドとクールサイドを分ける「衝立」の機能に注目されるなど、これまたいくつかの理由を挙げることができるが、最大の要因は生産性、つまりコストだ。メルセデス・ベンツの最新直6エンジン(M256とOM656)のように、ディーゼルエンジンを含めて6気筒と4気筒のエンジンパーツを共有化、モジュール化できるようになり、開発や生産のコストが引き下がったため、直6エンジン復活というクルマ好きには思ってもみなかった展開となったのだ。

もっとも、今後、内燃機関の生きる道はふたつしかない。プラグインハイブリッドシステムを選ぶか、化石燃料由来ではない燃料を使えるようになるか、である。手っ取り早いのは前者であり、そうなると重量やコスト、さらにパフォーマンスの最適解の制限から直4エンジンが再び主流となりそうだ。再び脚光を浴びた直6エンジンの未来は決して明るいとは言えない。

そんな状況を知って最新のBMW製ストレート6を積んだM440i xDriveカブリオレを駆ってみれば、一層その滋味深さに感動する。

2020年にデビューした現行型の4シリーズ。まずはクーペ(G22)が同年秋に日本上陸を果たし、2021年になってからカブリオレ(G23)も導入された。ちなみにグランクーペ(G26)も年秋から納車が始まっている。日本仕様としてすべてのボディタイプに2L 直4 FRの420iと、3L 直6 xドライブを設定した。

踏み込んだ時の絶妙な反応「シルキー6」は健在だった

3シリーズクーペを4シリーズと呼ぶようになって二代目。最大のニュースは巨大なキドニーグリルだったが、今となっては見慣れた気もする。否、実物は写真で感じたほど「巨大」ではなかった。国内外のプレミアムブランドに比べて大きいとは必ずしも言えず、キドニーグリルとしては大きいというだけのことだった。しかもフェイスの天地に及ぶグリルデザインは立派に先祖返りでもあったから、筆者などはかえって好ましいと思ったものだ。

これまでのBMWクーペスタイルの美意識はあくまでもセダン派生だった。けれども先代で3シリーズという名前と決別した結果、デザイン的に吹っ切れたのだろう。現行モデルはもはやミニ8シリーズというべきダイナミックなスタイリングとなり、その走りもまたグランツーリスモ性に磨きをかけたものとなった。

コンバーチブルにおける最大のニュースはソフトトップが復活したこと。とはいっても実際に触っていただくとわかるのだけれども、見た目に「ソフト」というだけでルーフはとても硬い。走行中に「はためく」などということは100%ない。それゆえオープンスタイルにはまだリトラクタブルハードトップと同様の「収まりの悪さ」がある。ソフトトップに特有の潔さには若干、欠けてしまう。もっとも質感の異なる2トーンデザインは十分にエレガントだから、収まりの悪さを補って余りあるといっていい。

Mハイパフォーマンスを除いて最強グレードとなるM440iコンバーチブルの走りは、期待どおり、クーペとほとんど変わらぬダイナミック性能をキープし、その上で爽快なオープンエアクルージングを提供するというものだった。なにより本稿の主題でもあるストレート6がやはりいい。右足を踏み込んだ時の抜けの心地良さ、とでも言おうか。

テストは一般道と同じ舗装路面のクローズドコースで行ったので、久しぶりに思う存分、高回転域まで回したが、3000rpmから4000rpmあたりで右足裏に感じる力強さもさることながら、力を出し切ったかと思う6000rpm以上からレブリミットあたりで生じる超精密なメカニカルノイズが乗り手をいたく刺激する。

当然のことながらその状態を永遠に楽しむわけにはいかず、コーナーが迫り来るたびに右足を踏み替えて一からやり直すわけだが、そのプロセスが何度繰り返しても楽しい。もちろん、パワートレーンの高いレスポンス性に適応する制動フィールとハンドリング性能があってこその話ではある。

加えてフルオープンにした時にこだまして室内へと降り注ぐエキゾーストノートの、ボリュームをほど良く抑えつつもしっかりとした圧を感じさせる官能性の高さといったら! クローズドコースをずっと回っていてもまるで飽きないほど、クルマ運転好きにはたまらないサウンドである。

ああ、これがストレート6だ。自然吸気ではないけれども、それはもはや高望みにすぎる。ターボ化は高性能と燃費の両立を願い続けたユーザーへの、そして社会からの要請に対するメーカーの生真面目な回答でしかない。

高回転域まで回した時、そんなことはどうでもいいと思えてくる。シルキー6は健在だ。(文:西川 淳/写真:永元秀和)

●BMW M440i xDriveカブリオレ主要諸元

●全長×全幅×全高:4775×1850×1395mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:直6 DOHCターボ
●総排気量:2997cc
●最高出力:285kW(387ps)/5800rpm
●最大トルク:500Nm/1800−5000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・59L
●WLTCモード燃費:10.9km/L
●タイヤサイズ:255/35R19
●車両価格(税込):1089万円