MOVIE WALKER PRESSスタッフが、週末に観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画。今週は、文豪ディケンズの半自伝的小説を映画化した奇想天外な物語、韓国諜報機関の部長が大統領を殺害した史実に基づくサスペンス、チベットの大草原で暮らす三世代家族を描くヒューマンドラマのバラエティ豊かな3本!

■観る人を元気にしてくれるコメディ…『どん底作家の人生に幸あれ!』(公開中)
イギリスの国民的作家、チャールズ・ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を、『スターリンの葬送狂騒曲』の鬼才アーマンド・イアヌッチ監督が映画化。怒涛のストーリー展開&楽天主義に貫かれた明るいユーモアといった古典文学らしからぬ(?)ディケンズ作品の魅力にスポットを当て、観る人を元気にしてくれるコメディ映画を作り上げた。奇人変人ぞろいの登場人物をバイタリティたっぷりに演じるのは、デヴ・パテルやティルダ・スウィントン、ベン・ウィショーなど個性の強い実力派俳優陣。肉親の設定であっても様々な肌の色が当たり前のように混在するダイバーシティなキャスティングが、原作の多種多様なキャラクター像をさらに際立たせている。シュールな世界を盛り上げる、ファンタジックな映像の数々も楽しい。全編にあふれる「どんな困難も必ず乗り越えることができる」というメッセージは、今の時代にこそ響くはず!(映画ライター・石塚圭子)

■ラストまで緊張感たっぷりの政治スリラー…『KCIA 南山の部長たち』(公開中)

1979年に起きた韓国のパク・チョンヒ大統領暗殺事件。韓国を震撼させた大事件をイ・ビョンホン主演で映画化したのが本作だ。61年に軍事クーデターで大統領の座についたパク。軍人時代から彼を支えた腹心である韓国中央情報部(KCIA)部長キム・ギュピョンは、民主化運動をねじ伏せるパクの強硬な姿勢に疑問を募らせていく…。大統領とNo2の確執を描いた本作、キムを演じたイ・ビョンホンの繊細な心理描写も手伝ってラストまで緊張感が持続する政治スリラーになっている。監督は政財界の闇部を濃厚な映像で描いた『インサイダーズ/内部者たち』のウ・ミンホ。今作はシンメトリーを多用した様式的な映像を駆使し、凶行へと駆り立てられるキムの内面をあぶり出す。40年前の韓国大統領暗殺と聞いて、ピンとこない人もいるだろう。しかしこの事件、実は日本ともつながりがある。現在の冷え切った日韓関係の原因のひとつになっている日韓請求権協定。65年にこの協定を結んだ当事者がパクだったのだ。本筋ではないものの、秘密工作費が日本紙幣で支払われるなど端々に当時の日韓情勢が顔を出す。ほんの少し事情をかじっておくだけで、何倍も楽しみが増す作品だ。(映画ライター・神武団四郎)

■産むのか、産まないのか。大草原で暮らす母親の決断とは…『羊飼いと風船』(公開中)
どこまでも続く青々とした牧草地。走り回る子どもたちの手には白い風船が揺れている。それを見た大人が激怒。風船に見えたものは避妊具だった。チベット映画の先駆者、ペマ・ツェテン監督の日本劇場初公開作『羊飼いと風船』は雄大な自然のもとに暮らす牧畜民の大家族を暖かな視線で見守る。子どものいたずらで、避妊できなかった若い母親が妊娠。手のかかる3人の男の子を抱え、子育てに追われる母親にのしかかる一人っ子政策の罰金。そこにきて、生まれてくる子は亡くなった義理の祖父の転生だと告げる高僧。産むのか、産まないのか。誰もが産んで当然と思っているなか、母親は自分たちの未来を見据えた決断をする。のどかに昔ながらの暮らしを営んでいるように見えて、実際にはここにも近代化の波は押し寄せている。もはや世界中の人々の暮らしが以前とは変わり、ついに子どもたちが「本物」の風船を知るように誰も過去には戻れないのだと思い知る。(映画ライター・髙山亜紀)

週末に映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて!

構成/サンクレイオ翼