マーベル・コミックの実写映画化『マイティ・ソー』シリーズ(11、13、17)でソーの仲間のアスガルドの戦士ホーガンになりきったと思ったら、現在放送中の連続テレビ小説「おかえりモネ」では東日本大震災で職を奪われ、酒浸りの日々を贈る元漁師のオヤジを人間味たっぷりに等身大で熱演!渡辺謙、真田広之の次の世代で、浅野忠信ほどワールドワイドに活躍し、多彩なキャラクターを自分のものにしている日本の俳優がほかにいないことは誰もが認めるところだろう。

そんな浅野のハリウッド映画の最新出演作は、世界でもっとも売れた人気格闘ゲームのひとつを実写化した『モータルコンバット』(公開中)。太古より続く格闘トーナメントを舞台に人間界の戦士たちが魔界チームと戦う本作で、浅野はいまの彼にもっとも相応しい人間界の守護神ライデンを堂々と体現している。というのも、世界中から有能な戦士を見つけだし、彼らを鍛え上げて人間界の最強チームを作り上げようとするライデンは、『スター・ウォーズ』シリーズ(77〜)のヨーダ、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(01〜03)のガンダルフを想起させる指導者的なキャラ。世界中を飛び回り、後進たちの憧れや希望の存在になりつつある浅野の実像がそこに重なり、ライデンに説得力をもたらしているのだ。

■岩井俊二や黒沢清のもとで存在感を示し、活躍の舞台は世界へ

だが、浅野忠信がここまで大きな存在になると誰が思っていただろう。それこそ、映画デビュー作『バタアシ金魚』(90)では主人公のカオル(筒井道隆)とヒロインを取り合うライバル高校水泳部の主将ウシを鋭い形相で体現していたが、いまと違って、身長が低くてどこか可愛らしい。ヘアメイクのスタッフがついた筒井と違い、自分の頭髪を助監督がバリカンで雑に丸刈りにしたことをず〜っと恨んでいたことも、いまとなっては懐かしい。

浅野が一躍脚光を浴びたのは1995年、是枝裕和監督の劇場映画デビュー作『幻の光』で理由も分からぬまま突然死んでしまうヒロイン(江角マキコ)の夫を演じたとき。こちらを振り向いたその闇を抱えたような表情がいまなお脳裏に焼きついている人も少なくないだろうが、彼のここからの快進撃は周知の通りだ。

岩井俊二監督のドラマ「FRIED DRAGON FISH」(93)や『PiCNiC』(95)を皮切りに青山真治、石井聰亙(現・岳龍)、黒沢清など作家性の強い気鋭監督の話題作に次々に出演し、輝きを増していった。そして、自分が好きなミュージシャンの活動も当初は併行して行っていたが、2001年の相米慎二監督の遺作『風花』で酔っ払いの果ての万引き事件のせいで行く場をなくしたキャリア官僚を生々しく演じたあたりから、佇まいや雰囲気だけではない、芝居で見せる本格的な俳優へとシフト。

2007年、ロシアのモルゲイ・ボドロフ監督作『モンゴル』で主人公のチンギス・ハーンを必死に覚えたモンゴル語で演じ、2009年の根岸吉太郎監督作『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』では酒と女に溺れ、放蕩の限りを尽くす人気作家に。孤児になった少女(二階堂ふみ)を引き取る遠縁の養父の狂気を体現した2014年の熊切和嘉監督作『私の男』ではモスクワ国際映画祭最優秀男優賞を受賞するなど、演技派のポジションを徐々に確立していった。

そして、前記の『マイティ・ソー』で2011年に待望のハリウッド映画デビューを果たしたわけだが、振り返れば、『幻の光』の取材時には「英語を完全に自分のものにしてからハリウッドには行きたい」と公言していた浅野。そのときから密かに英会話を学び続け、その時に備えていたのかもしれない。その甲斐あって、本作で彼が演じた勇者ホーガンは、ほかのメンバーにもひけをとらない堂々の存在感で、オリジナルのコミック・ファンの信頼も勝ち取った。要は、ここでも説得力があったのだ。

■これまでの努力とスキル、キャリアが凝縮された『モータルコンバット』

2017年に公開された『新宿スワンII』取材時の、こんな発言も覚えている。「(日本未公開の中国映画)『The Wasted Times』の撮影をしながら次作の準備をし、『沈黙-サイレンス-』の(確かオーディションのために)膨大な英語のシナリオを頭に入れた。自分でもスゴいと思っているよ」。その言葉がいまの浅野忠信を象徴しているが、その努力とスキル、キャリアが凝縮され、そのまま存分に炸裂しているのが今回の『モータルコンバット』だ。

アメリカ、日本、シンガポール、オーストラリアなど世界中から国際色豊かなキャストが集められ、映画の内容そのままにドリームチームで構成された本作だが、最初にも書いたように、浅野が演じたライデンは、それぞれ独自の魅力と必殺技を持つ彼らファイターを束ねるリーダー的な存在。「なので、貫禄を出した方がいいと思って、声を低くした。あと、ライデンにはあの笠をずっとかぶっていて欲しくて。サイモン・マッコイド監督はとるシーンも考えていたみたいですけど、笠はライデンのシンボルですからね」と浅野は振り返る。

そんな浅野について、マッコイド監督も「タディ(浅野のこと)はすごく才能のある俳優」と絶賛。「彼もスコーピオン(伝説の忍者ハンゾウの別の姿)を演じた真田広之さんも、キャラクターに存在感と重みをもたらしてくれました。特にライデンはほかのファイターたちの上の立場にいる長老の神だから、その威厳と存在感を維持し続けなければいけない。しかも、本物のライデンに見えるためには若くもなく年寄りでもない、日本人の俳優に演じてもらうことが重要だったんですが、タディはそれを見事に成し遂げてくれました」。

マッコイド監督の言葉に嘘がないことは、「僕は今回、ライデンがいろいろな世界と交信していたらどうだろう?ということを考えながら演じたんです。そしたら、監督がその雰囲気を見抜いて認めてくれた。あれは嬉しかったですね」と語った浅野のコメントからも明白だ。実際、撮影現場では監督だけでなく、ほかの共演者ともフレンドリーにクリエイティブな仕事が共有できたようで、「世界には色んな俳優や監督がいて、彼らと一緒に役を体現していると僕はすごく自由になれるし、自分のなかの可能性も広がる」と、浅野自身も海外に活動のフィールドを広げたことによる充実感を噛み締める。「その分、負担も増えるけれど、それも自分を成長させてくれる。いまは世界中のみんなで映画を撮れる時代ですから、若い俳優はどんどん外に出ていって欲しいですね」。

その言葉には説得力も重みもあって、『ルパン三世』(14)のタイの現場でペンキ塗り立てのヘリコプターに寄りかかって衣裳のコートをベタベタにしながら誰よりも爆笑していたり、「当然、石川五ェ門(綾野剛)役だと思っていたから、銭形警部でのオファーを聞いたときはビックリした。でも、友だちにその話をしたら『オマエももうオヤジなんだよ!』って指摘されて」と苦笑していたときの浅野とは別人のよう。

だが、次の瞬間には「魔界の皇帝シャン・ツンが去った後に言う、『アイツは喋り過ぎだな』というライデンのセリフは好きですね」と無邪気にニンマリ。「あの少しふざけたような言い方は、それまでの戦いのことだけを真面目に考えていた彼とのギャップがあって、すごくおもしろいなと思いました」と悪戯っ子のように顔をくしゃくしゃにしながら笑ったが、そんな浅野忠信のチャーミングな魅力も、ライデンのキャラクターに深みと温かみをプラスしているのは言うまでもない。

※記事初出時、表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

文/イソガイマサト