日本はもちろん、世界中で愛される「ムーミン」の生みの親として知られるフィンランドの作家、トーベ・ヤンソン。彼女の半生や「ムーミン」誕生の軌跡にも迫る『TOVE/トーベ』が現在公開中だ。そこで今回、本作と同じく著名な作家やその創作活動を描いた映画のなかから印象的な作品をピックアップ。見どころとあわせて紹介していきたい。

■「ロード・オブ・ザ・リング」&「ホビット」の壮大な物語を創り上げたJ・R・R・トールキンの青春時代に迫る『トールキン 旅のはじまり』

ピーター・ジャクソンによって「ロード・オブ・ザ・リング」&「ホビット」三部作として映画化された「指輪物語」と「ホビットの冒険」。これらのベストセラー小説を執筆し、現代のファンタジーの基礎を築いたと言われる作家、J・R・R・トールキンの物語を映画化したのが『トールキン 旅のはじまり』(19)だ。

3歳で父親を、12歳で母親を亡くし、母親の友人で後見人でもあるモーガン神父のサポートにより名門キング・エドワード校へ入学したトールキン。そこで芸術を愛する3人の少年と出会い、「芸術で世界を変えよう」を合言葉にかけがえのない絆で結ばれていく。さらに、3つ年上の女性エディスと恋に落ち、トールキンの青春時代は充実したものになるが、第一次世界大戦の勃発によってすべてが一変してしまう。

トールキンを演じるのは、「X-MEN」シリーズなどのニコラス・ホルト。エディス役のリリー・コリンズのほか、シェイクスピア劇などで活躍してきた名優デレク・ジャコビもトールキンが師事する言語学者役で出演している。仲間たちと秘密クラブ「T.C.B.S.」を結成し、芸術や夢について語り合う様子やエディスとの恋物語は瑞々しさを感じさせる青春ストーリー。一方で、壮絶な従軍経験も描かれ、戦争の残酷さも浮き彫りに。トールキンが出会った人々や戦争によって様々な犠牲を払った経験が、彼が創り上げた壮大な物語の世界観に影響を与えたのだと想像させる。ちなみに、ホルトはJ・D・サリンジャーの半生を描いた『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(17)でも主演しているので、偉大な作家を立て続けに演じた彼を見比べてみるのもおもしろいかも。

■トルーマン・カポーティの最後の小説「冷血」誕生秘話と心の揺れ動きを描く『カポーティ』

『カポーティ』(05)は、人気作家トルーマン・カポーティがノンフィクション小説「冷血」を書き上げた6年間に迫る伝記作品。23歳で初めての長編「遠い声 遠い部屋」を発表し、若き天才作家と絶賛されたカポーティ。その後ものちに映画化される「ティファニーで朝食を」を出版し、社交界で注目を集めるなど一躍時の人になっていた。そんな時、彼は新聞に掲載された一家殺人事件の記事に興味を持ち、拘留中の犯人に接触しようとする。

実際に起きた事件を綿密にリサーチして小説にする、ノンフィクション・ノベルという新たなジャンルを築くことになった「冷血」。しかし、幼少期に実の親に捨てられたという自身と似た境遇を持つ殺人犯の男に親近感を覚えたカポーティは、取材を進めるうちに彼を救いたいという想いが芽生え始め、死刑が執行されることで作品を早く完成させたいという気持ちとの狭間で精神的にも大きく疲弊していく。

事実として、カポーティは「冷血」以降は長編を書き上げることができず、1984年に59歳で急死してしまう。本作では、このような結末を迎えるに至った彼の心理的変化と死刑囚との奇妙な友情が描かれていく。複雑な感情を繊細に表現した主演のフィリップ・シーモア・ホフマンは、まるで本人の生き写しだと高く評価され、第78回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した。

■「くまのプーさん」誕生とヒットの裏側にある父子の苦悩『グッバイ・クリストファー・ロビン』

『グッバイ・クリストファー・ロビン』(17)は、A・A・ミルンによる名作童話「くまのプーさん」の誕生秘話や親子の絆を描いたヒューマンドラマ。「スター・ウォーズ」続三部作のドーナル・グリーソンがミルンを演じるほか、彼の妻ダフネ役で『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(21)などでハーレイ・クインを怪演するマーゴット・ロビーが出演している。

作家のミルンは第一次世界大戦から帰還するがPTSDに苦しんでいた。やがて妻のダフネとの間に息子、クリストファー・ロビンが誕生し、静養のためロンドンから田舎町へと移住することに。しかし、なにも書こうとしない夫に愛想を尽かしたダフネは実家に帰ってしまう。かくして、息子と2人で暮らすことになったミルン。最初は気が進まなかったが、息子と森を散歩したり、彼がぬいぐるみで遊ぶ様子を見守るなかで「くまのプーさん」の構想を練り上げていく。

「くまのプーさん」といえば、誰もが一度は目にしたことがあるだろう物語で、長きにわたって人々を楽しませ、世界中の人々に愛されてきた。一方で、その背景には戦争に苦しんだ過去があり、作品の大ヒットに反して、自身をモデルにした父親に対するクリストファー・ロビンの反発もあった。父子の対立や関係の修復を丁寧に映しだしたストーリーに胸がギューッと締めつけられ、絵本で見たことがあるようなシーンや美しいイギリスの田舎町の風景が観る者の心に安らぎを与えてくれる。

■18歳で「フランケンシュタイン」を書き上げた女流作家の孤独な闘いが胸を打つ『メアリーの総て』

『メアリーの総て』(17)は、200年にわたって愛され続けるゴシック小説「フランケンシュタイン」をわずか18歳で書き上げたイギリスの女性作家、メアリー・シェリーの半生を描いた作品。本作が長編デビュー作となったサウジアラビア人初の女性映画監督、ハイファ・アル=マンスールが監督を務め、主人公のメアリー・シェリーをエル・ファニングが演じている。

小説家を夢見ていた16歳のメアリーは、折り合いの悪い継母と離れ、父の友人のもとで暮らし始める。そこで妻子ある詩人、パーシー・シェリーと出会いお互いの才能に惹かれ、駆け落ちする。女の子が誕生し幸せな日々を過ごすメアリーたち。しかし、パーシーには借金があり、その取り立てから逃げる途中で娘は命を落としてしまう。深い悲しみと喪失感に打ちひしがれるメアリーはある日、滞在していた悪名高い詩人、バイロン卿の別荘で開かれる怪談の会への参加を持ちかけられる。

ダメ男ぶりが際立つ夫に振り回されるメアリーの姿に、「まだ若いのになぜこんな男に…」と思う人も多いはず。しかし、そうした悲惨な生活を送ったからこそ、名作「フランケンシュタイン」を書くことができたのかもしれないと思うと、なんとも皮肉なものだ。本作の舞台は1800年代だが、現代社会とも深くリンクするメッセージ性を持っている。己の力でつらい現実と向き合い、前へ進もうとするメアリーに大勢が勇気づけられるに違いない。

■世界中で愛される「ムーミン」と共に成長したトーベ・ヤンソンの創作への取り組みを綴る『TOVE/トーベ』

「ムーミン」誕生の経緯やトーベ・ヤンソンの生き様も赤裸々に綴られる『TOVE/トーベ』。物語の始まりは1944年、第二次世界大戦下のフィンランドはヘルシンキ。激しい戦火のなかで、画家のトーベは自身を慰めるように、不思議な「ムーミントロール」の物語を作っていた。やがて戦争が終結し、廃墟と化したアトリエで本業の絵画制作に取り組もうとする。しかし、昔気質で厳格な彫刻家の父との対立、保守的な美術界への葛藤もあり、トーベは自身の表現について思い悩んでいくのだった。

スナフキンのモデルと言われる、政治家で哲学者、作家にジャーナリストと多方面で活躍するアトス・ヴィルタネンや、トフスランとビフスランのキャラクターに影響を与えた舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーといったトーベの運命を大きく変える人物が次々と登場。さらに、トーベとヴィヴィカによって「ムーミン」が舞台化される様子も描かれるなど、「ムーミン」ファン必見の内容に。

トーベを演じるのは、2014年にトーベ・ヤンソン生誕100年を記念して制作された舞台「トーベ」でも同役を演じ、アニメーション映画『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』(14)ではフローレン(スノークのおじょうさん)の声を担当するなど、なにかと「ムーミン」との縁が深いアルマ・ポウスティ(ポウスティの祖母は「ムーミン」の舞台にも出演した俳優でトーベとも親しく、彼女自身も子ども時代に本人に会ったことがあるのだとか)。様々な恋愛を経験し、自身が生みだしたムーミンと共に成長しながら迷い傷つくなかで、芸術家としての地位を確立していく姿を見事に表現。本国フィンランドでは公開されるや大絶賛で迎えられ、第93回アカデミー賞国際長編映画賞のフィンランド代表にも選出された。

実在の人物にフォーカスした物語は、ノンフィクションだからこそ胸に突き刺さるものがあり、これまで抱いてきたイメージとは違ったバックグラウンドを知る楽しみもある。秋の夜長、名作を生みだした作家たちの半生に想いを馳せてみてはいかがだろうか。

文/咲田真菜