人気アニメシリーズの4年ぶり新作となる映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(公開中)。MOVIE WALKER PRESSでは、本作のエグゼクティブプロデューサーも務めた集英社「ドラゴンボール室」室長の伊能(いよく)昭夫にインタビュー。全世界興収135億円超えの大ヒットを記録した前作『ドラゴンボール超 ブロリー』(18)の制作中に生まれたという本作の構想過程、原作者・鳥山明の携わり方やクリエイティビティについて。そして今後「ドラゴンボール」というコンテンツが目指す方向について尋ねた。

2016年に誕生した「ドラゴンボール室」は、集英社内で初めてとなる作品名を冠にした部署。立ち上げの目的について「最初はよくわかりませんでした(笑)」と笑う伊能。「『ドラゴンボール』という作品をどのように継続していくのか。特に鳥山先生にどのように作品に関わっていただくのかをハンドリングするのが大きな目的。特に映画やゲームは完成までに数年かかるのが当たり前なので、次の展開、またその次の展開と引き継いでいけるようにする部署という気がします」と解説する。

■「海外での日本アニメは大衆的な人気ではなかったので、より広いマーケットへ出していこうと考えました」

この6年で成し遂げたことについて「『ドラゴンボール』は映画が出来上がっておしまい、という世界ではありません。その後、海外に展開したり、ゲームをはじめとする商品化にも取り組んでいきます。それが現在大きな仕事としていることの一つです」と、『ドラゴンボール』ならではの展開に触れる。立ち上げ時には「海外展開」も重要なキーワードとなっていた。「日本のコンテンツは海外で人気があるとされているけれど、実際にはどのように人気なのか、視覚化されて意識しにくいんです。最近になってようやく数字として出てきた部分はあっても、どんな人にどのように人気なのかは明確に分かっていない印象です。ですから、世界中のアニメやコミックのイベントに顔を出して、実際の人気を肌で感じる機会を設けました。誤解を恐れずに言うと、もっともっと人気があっても良いと感じました(笑)。イベントには日本のコンテンツを好きな人が集まっているので、一定数の人気を感じることはできます。でも、広く大衆に人気があるかというと、そうでもないなという印象を受けました」と素直に語る。

日本発のアニメや漫画は、アメリカやフランス、ドイツなどで人気が高いイメージがあるが、日本で感じる人気度とのギャップはあるのだろうか。「熱狂的に支持してくれる方も一定数いると実感しています。そういった状況を踏まえたうえで『ドラゴンボール超 ブロリー』は、より広いマーケットへ出していこうという思いで作り、海外でもいままでのコンテンツとはちょっと違う規模の数字を残すことができました」と前作制作の経緯を明かす。結果、『ドラゴンボール超 ブロリー』は北米興行ランキングで初日1位を記録、最終的に北米で3000万ドル以上を稼ぎ出すヒットとなった。この成功が『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』(20)や『劇場版 呪術廻戦 0』(21)など、近年北米でも興行的に成功を収めた作品に影響を与えたと言えるだろう。

海外での反応を肌で感じるなかで、日本コンテンツが“次にくる国”はどこだと考えているのだろうか。「アメリカ、フランスあたりは規模も圧倒的に大きいので、そこを外すと大きな結果には繋がらないと考えています。ヨーロッパは国によって反応や求めていることに違いがあるので、ポテンシャルと言う意味でいま一番期待できるのは南米です。熱狂的なファンがかなりいますし、まだまだ行き届いていないところもあり、求められる部分があるなら、公式として動くべきなんだと気付かされました」と積極的にファンのニーズに応えていくことの必要性に触れる。

海外展開について、鳥山から具体的なリクエストはないという。「歴史のある作品で早い段階から海外のファンがついてくれたことには、すごく感謝されています。特にフランスは作家を非常に大切にする国で、“ぜひ先生に賞を”というお声がけもたくさんいただきます。そういった状況に感謝しつつも、謙虚に“なんで、こんなにファンがいるのか分からない”ともおっしゃっています(笑)。先ほども触れたように、具体的な数字で可視化できているわけではなかったので、実感が持てないのだと思いますが、ことあるごとにファンの方には感謝を口にされています」と鳥山の様子を明かした。

■「鳥山先生には、物腰の柔らかさと、非常に強いこだわりという二面性があります」

「ドラゴンボール」の世界的な人気を鳥山にもっと肌で感じてほしい、数字として見せたいという思いも、映画を作る大きな原動力だと語る伊能。「世界各地にいるファンを集結させるというのでしょうか。映画を作り“こんなに盛り上がっています”と、視覚化して鳥山先生にお知らせしたいんですよね」と笑顔を見せる。

編集者としても鳥山と仕事を続けてきた伊能に、鳥山の作家性や人柄の魅力について尋ねた。「二面性があるということ。これは作品にも人柄にも通じるところで、先生にお会いすると皆さん『物腰も柔らかくて、明るくていい人』とおっしゃいます。なんでも受け入れて下さる雰囲気や、懐の深さをお持ちになりながらも、こと作品作りにおいてはとにかくこだわりが強い。そんな二面性を持っている気がします。そこが作品の強度を支えているように思います」。

「先生のすごいところは、やはり唯一無二の画。これは本当にすごいし、皆さんもそう感じていると思います。そして、ストーリーテリングの力もずば抜けています。今回の映画でも、脚本を書いていただきましたが、まあ、普通では書けないようなものが出てくるんですよね。原作者だからずるいと言えばずるいのですが(笑)。物語の跳躍ぶりは誰にも真似できないところです。あとはやはりキャラクター作りですよね。『ドラゴンボール』は人型ではない、異質なデザインの宇宙人も登場する。とにかく想像力がすごすぎて、尋常でないと感じずにはいられません」と、唯一無二の魅力を熱く語る。

「本作をご覧になると分かると思いますが、今回は従来と違うビジュアルにしています。鳥山先生は、作品を作るごとにビジュアル面を更新していくことを求めてらっしゃるのですが、『ドラゴンボール』ってこうだよね、というのが皆さんのなかにあるから、難しい部分でもあるんです。だけど、鳥山先生は毎回、“僕のイラストを変えたから、アニメーションでも変えてね”とプレッシャーをかけてきます(笑)。従来のイメージとの塩梅はかなり難しいのですが、ビジュアル面の更新は本作のテーマだったので、そこは注目してほしいところです。今回のテーマを分かりやすく言葉にするならば“眼福”。シンプルに、観てすごい、かっこいいと感じてもらえることを目指して作りました」と胸を張った。

■「ドラゴンボール室の役割は、鳥山先生と共に作品を継続していくこと」

ドラゴンボール室長として伊能が心がけているのは、作品を継続し続けていくこと。「作品名を冠している部署なので、この先どう展開していくのか、積極的に声をあげていきたいと考えています。大事にしているのは、原作者である鳥山先生が作品に関わること。別に先生に鞭打って動いてもらうわけではありませんが、本人の希望を探り続け、関係各所に言語化して伝えることが、私自身、そして部署としての役割だと考えています。先生には3年後、4年後のイメージを共有しながら進めるようにしています」と微笑む。映画に関しては最初から「何年かごとにやりましょう」と鳥山と話していたという。毎年制作する映画ではないからこそ、定期的にやっていこうというイメージを共有することが、継続という意味においてとても重要であると力説した。

「ドラゴンボール」を続けていくうえで、ジャンプ作品の王道である熱い展開を描く秘訣、いわゆる「友情、努力、勝利」の三原則はいまも絶対なのだろうか。「私も含めて、社内にいる人間もそこまで意識していない気がします」としながらも、「ただ、『週刊少年ジャンプ』がいまでもこれだけ作品を出し続けられる理由は、作家と編集の関係性にあると思っています。社内ではいまも、常にあちこちで作家と編集が電話で話す声がしています。ずっと変わらずそのスタイルを続けていることこそが、作品を生み出すことにつながっている気がします。もちろん作品がすべてヒットするわけではありませんし、ヒットしなかった作品がすべておもしろくなかったというわけでもない。散々話し合ったけれど、ユーザーに受け入れられないことだってある。だからといって、作家とのやり取りが無駄だったかと、皆後ろ向きになりません。ユーザーが受け入れることだけを考えて作ったら、作家が本当にやりたいこと、好きなことが出てきませんから。傍から見れば無駄が多いと感じると思いますが、その無駄の多さこそがよい作品を生み出すうえで、大事だと考えています」。

今後「ドラゴンボール室」として目指すことについては、「地道にやるしかないというのが一番にあります。映画に関していうと、おもしろければ当たるわけでもない。おもしろいのは大前提なんです。好きな人だけに向けて作っていくのも一つの方法だけど、もっと一般に広げていくことを考えたら、新しい要素を投入することも必要です。そのバランスをとりながら、とにかく作り続けること。それが大切だと考えています。これだけ長く愛されている作品なので、世代交代は特に意識するところです。第一世代が親となり、その子どもが観るようになり、と幅が広がってきています。世代間を意識しながら、大人も子どもも楽しめるもの探り続けていきたいですね」。

最後に、本作がタイトルに掲げる“ヒーロー”とはなにかを訊いてみると、「ちょっとこそばゆい気もしますが…」と照れ笑いしつつ答えてくれた。「誰もがヒーローであると、映画では伝わるといいなという思いがあります。あまり深く考えずに、映画を観たあとに“ちょっと頑張ろう”という気持ちになり胸を張って歩いてほしい、そんな感じです。僕自身はヒーローを倒したいタイプの人間なんですがね(笑)」。

取材・文/タナカシノブ