今年も“5月最初の月曜日”が、ニューヨークにやってきた!メトロポリタン美術館のコスチューム・インスティテュートが、米現地時間5月1日夜、毎年恒例のメットガラを開催した。ガラは同部門運営のためのチャリティイベントであり、その年の展示の開幕を祝う、世界最大級のファッションの祭典。今年の展示は、「カール・ラガーフェルド:ライン・オブ・ビューティ」。そして、ガラのテーマはもちろん、2019年にこの世を去った伝説的デザイナー、カール・ラガーフェルドだ。開催に先立ち、ドレスコードは、「ラガーフェルドに敬意を表して」であることがゲストたちへ伝えられた。

特に晩年、ラガーフェルド自身はアイコニックなお決まりスタイルを貫いたが、“絶えず変化し続けて時代に順応すべき”というポリシーを持ち、ウィメンズのみならず、クリエイションを通じてメンズにもファッションの楽しさを世に残したことは確かだ。メットガラのレッドカーペットで、最もハンサムだったのは?

■ディオール・オムのキム・ジョーンズがキー・ホイ・クァン&ロジャー・フェデラーをスタイリング!

●キー・ホイ・クァン

最もクールな“カールコスプレ”に成功したのは、キー・ホイ・クァン。ホワイトのハイカラーシャツ、ブラックのタイ、細身のブラックジャケット、サングラス、そしてフィンガーレスのブラックグローブ!細身のジャケットが、ラガーフェルドのお決まりになったのは2000年ごろ。当時、ディオール・オムのデザイナーだったエディ・スリマンがデザインするタイトなジャケットが着られるようになりたいから、およそ40キロのダイエットをしたのは有名な話。
そのタイトなデザインをモダンに、かつキー・ホイ・クァンに似合うよう表現するためにタッグを組んだのが、現在ディオール・オムのクリエイティブ・ディレクターを務めるキム・ジョーンズ。そして、注目すべきは、ラガーフェルドも愛したタイへつけるブローチなどのアクセサリー。「CD」(Christian Diorのイニシャル)ロゴがさりげなく煌めいており、非の打ち所がない。ディテールにこだわり、ポイントに忠実だと失敗などあり得ないことを証明!

●ロジャー・フェデラー

共同司会者を務めた元プロテニス選手のフェデラー。オリバーピープルのサングラスや世界初披露となったロレックスウォッチがスタイリングのスパイスになっているが、ルックはシンプルに見える?準主役の共同司会者ですもの、そんなはずはございません!
フェデラーがインスタで、このスペシャルなプロジェクトの詳細を明かしている。特別な一着にすべく一緒に制作した相手は、ディオール・オムのキム・ジョーンズ。漫画家になるのが夢だったというラガーフェルドはとにかく絵を描くのが好きだったので、デザインの多くをスケッチで残しているが、そのスケッチアーカイブのなかから、フェデラーとジョーンズがリードするチームで選んだものをダブルブレストのタキシード裏地に配置した。同じプリントでマッチさせた(ポケット)チーフが最高にスタイリッシュ!メンズファッションの楽しさを体現して、ラガーフェルドを称えた。

●トミー・ヒルフィガー

ニューヨークを代表するデザイナーのヒルフィガーは、デート(連れ)でもある奥様やそのほかのゲストセレブのためにもデザインしたり、プロデュースしたりしたのだが、ご本人が着用したルックが一番よかった!ヒルフィガーが普段からよくともに仕事をするというテーラーに、ヴィンテージのCHANELの生地を見つけてもらって、そこからスーツを制作。ラガーフェルドといえばブラックだけれど、ヒルフィガーはネイビーブルーをチョイス。そしてラペルとパンツの側章にはレッドでラインを引いた。

カラーパレットには、ホワイトを足すことを忘れない。ハイカラーのシャツはもちろんホワイトなのだけど、ラガーフェルドからプレゼントでもらったものなのだとか!そんなステキなエピソードと合わせて、コーディネートを“自分のもの”(ネイビー、レッド、ホワイトはトミー ヒルフィガーのブランドテーマカラー)にしちゃうトミーの卓越さといったら!

●ペドロ・パスカル

ライブ中継されていたレッドカーペットリポートで、パスカルが登場した途端、オーディエンスたちが騒ぎ出した。それは、パスカルが「インターネット・ダディ(この人のこと嫌いな人いなくない?というぐらいネット上で人気がある、性的魅力にあふれた男性のこと)」の称号を得ているから、だけが理由じゃない。ほとんどのゲストが(予想通り)ブラックとホワイトでまとめてくるなか、ひときわ異彩を放つヴァレンティノのレッドルックに目を奪われたからだ。

オーバーコートだが、春らしい鮮やかなレッドなのでそこまで重くないし、ショーツと合わせて素肌を見せることでバランスをとったのもグレイト。いくらセレブといえど、大胆なスタイリングをするのが急に怖くなることもしばしばだから、ここでシャツを“安全牌のホワイト”にしないで、本当によかった。ショーツだけでなく、ミリタリーな編み上げブーツ、それに合わせたソックス、全体的にリスクしかないようなスタイリングなだけに、着こなしたパスカルを誰もが称賛。無造作風のグレー髭とは対照的に整然と撫でつけられたヘアなどのセクシーなグルーミングもあいまって、多くの人を虜に!

■パートナーと揃って初めて真価を発揮するスタイリッシュな装いも

●タイカ・ワイティティ

マーベル映画や最新プロジェクトを通じて、一躍人気監督・プロデューサーとなったワイティティ。私生活では歌手のリタ・オラと結婚して、公私ともに絶好調。そんなワイティティが選んだのは、個性的なグレイッシュシルバーのブレザーのようなオーバーコート。中にシャツなどのインナーを着ないで軽やかさを出したこと、数連の“CHANELパール”を取り入れたことは良いけど、ワイティティだけを見るとそこまで特別な感じもしない…。

それもそのはず、ワイティティのこの日の装いは、オラと合わせて完成するから!オラがオールブラックのルックなので、それを引き立たせる仕様なのだ。1人で写った写真と2人で写っているものを比べたら、その差は歴然。こういった場でのジェントルマンの、最もかっこいいスタイリングというのは、エスコートする相手を輝かせることだから。それが愛する人ならなおさらのこと!

●ロバート・パティンソン

プライベートのラブライフでイロイロあった“ロバ・パティ”は(メットガラには元カノが2人も!)、超ラブラブな今カノのスキ・ウォーターハウスと来場。ウォーターハウスのネイキッドなシースルードレスも良かったし、2人の仲睦まじい様子にみんなほっこり。長らくディオール・オムと仕事をしてきたパティンソンだけに、同ブランドより自分に似合う洗練されたネイビールックを選んだ。カラー(襟)は開けず、CHANELのファインジュエリースタイルのブローチで留め、タイやボウタイよりもファッショナブルなまとめ方を。

一見、かなりオーソドックスに見えるのだが、ディオール・オムのクリエイティブ・ディレクター、キム・ジョーンズのプロデュースによって、クラシックなジャケットをスカートのようなドレープコートに変身させたのだ。この1つの要素だけで、なんとも斬新なコーディネートが完成。ラガーフェルドが生前、「エレガンスの概念は常に変わるもの」と言っていたように、メンズファッションにスカートなどの自由をもたらす、おしゃれな革命を体現してみせた。

●ジェームズ・マカヴォイ

「X-MEN」シリーズの俳優ジェームズ・マカヴォイは、カスタムのダンヒルで出席。(シャツはホワイトだけど)オールブラックなルック自体はかなりシンプルなのだが、それに合わせたアクセサリーはファン(扇子)。2000年ごろにダイエットして、逝去直前までのファッションスタイルになる前のラガーフェルドといえば、常に扇子を持っていたことは誰もが知るところ!奇をてらわず、ガラのドレスコードを守ったトラディッショナルなスタイリングに、ガラのテーマが一目でわかるアクセサリーを取り入れるとは、とてもスマート!(しかも意外に扇子を取り入れたセレブがいなかった)

■階段で“引きずる”ことも計算し尽くされたバッド・バニーのスタイリングもお見事!

●デレク・ブラスバーグ

主催のヴォーグが生中継した動画のプレゼンターを務めたブラスバーグ。普段はファッション関連コンテンツを放映するテレビ番組などで活躍している。ブラスバーグのルックも、超定番なブラックのタキシード。だけど、胸元にはCHANELのアイコニックなモチーフであるカメリアのジュエリーが。

プレゼンターである限り、ゲストを迎える立場なので、自分が(ファッションで)目立つ必要はない。ドレスコードやTPOには自分の立場の考慮も含まれるから、これぐらいの演出がパーフェクトといえる。

●バッド・バニー

プエルトリコから世界へ躍り出たラッパーのバッド・バニーは、日本を舞台にしたブラッド・ピット主演『ブレット・トレイン』(22)で俳優デビューも果たし、4月にコーチェラでのパフォーマンスを終えたばかり。超人気モデル、ケンダル・ジェナーと付き合っているのではないかと噂されて、一挙一動が注目されるのも人気セレブの証といえる。

そんな快進撃が止まらないバッド・バニーは、ラガーフェルドによるデザインの真骨頂テーマである、ドラマティックを余すことなく表するジャックムスのデザインでレッドカーペットへ。シャツ、タイ、シューズもオールホワイトで、ジャケットはシングルブレストですっきりまとめた。そのおかげで、両袖から伸びるフラワーの付いたケープが引き立ち、全体をより一層ゴージャスなものへアップグレードしている。メットガラの“レッドカーペット”は、階段であることが通例。バックレスゆえ大きく開いた背中の、「J」のロゴのついたジュエリーにしても、階段にて“引きずる”ためのケープにしても、計算され尽くしていて、とても魅惑的!

●ブライアン・タイリー・ヘンリー

同じく『ブレット・トレイン』で愛すべきキャラ、レモンを演じたヘンリー。2017年春のクチュールコレクションからインスパイアされたという、まるで『ブレット・トレイン』さながらのエネルギッシュなコーディネートを披露。仰々しいまでのラッフル(しわくちゃが語源の、服の縁につけたひだ飾りのこと)がついたブラックのケープがコーデの主役。

「いろんな要素をミックスして、新しいものを生み出せたらいいな、と思った」とルックについて語り、「それで、ファッションを通じて自分を表現する。自分ってものをスタイリングに落とし込む。それがファッションの楽しさ、装うってそういうことじゃないの?」とコメントしたヘンリーは、このメットガラのテーマとドレスコード、つまりラガーフェルドが残した“モード界の帝王”学を、最も理解していた一人ではないだろうか。

文/八木橋 恵