今年の秋クールだけでも「君には届かない。」や「君となら恋をしてみても」が放送されるなど、1クールに複数放送されるようになったBL系ドラマの勢いが止まらない。本記事では、なかでも異彩を放つ「4月の東京は…」の魅力を掘り下げていきたい。

■ジャンルが多岐にわたりつつある“BL系ドラマ”


ひとくくりにBL系ドラマと言っても、いまや細分化され、ますますファンを増やしている。ラブコメ調のポップな作品から笑いは少ないシリアスな作品まで様々。ラブコメ調の作品で言うと、まず思い浮かぶのは「チェリまほ」の愛称を持つ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」だ。童貞のまま30歳を迎えたことで“触れた人の心が読める魔法”を手に入れたサラリーマンを主人公に、胸キュンのなかにファンタジックでコミカルな描写が盛り込まれていて笑わせてくれる。ファンタジックではないが、「おっさんずラブ」も笑わせてくれるドラマで、原作を持たないオリジナルドラマだったこともあり、もともとBLファンではなかった人も取り込んで社会現象を巻き起こした。

今夏、シーズン2が放送された「みなしょー」こと「みなと商事コインランドリー」も頬が緩むシーンが多い作品として記憶に新しい。アラサーと高校生の年の差カップルがお互い好き過ぎるがゆえに振り回されている姿は、視聴者を大いにニヤニヤとさせた。

お互いがお互いに振り回されている様子がおもしろい作品には映画化もされた「美しい彼」もある。スクールカーストの底辺にいる主人公が、カリスマ的美しさを持ちカースト頂点に君臨する通称“キング”に恋をする話だ。シーズン1は、主人公がネガティブな性格であるためつらい場面もあるが、主人公カップルがラブラブになったシーズン2からは、もはやコメディなのでは?と勘違いしそうな楽しいシーンも豊富だ。

さわやかな青春ラブストーリーでは、この秋放送された「君には届かない。」がある。幼なじみで親友同士だった2人が恋人として付き合い始めるまでが、甘酸っぱくて“尊いシーン”盛りだくさんで描かれている。ほかにも「消えた初恋」や「高良くんと天城くん」も青春のまぶしさが味わえる。

また、癒やし系としてはサラリーマン同士を描いた「オールドファッションカップケーキ」は人気が高い。さらに、泣けるシリアスドラマでは「永遠の昨日」が思いだされる。事故で死んでしまった同級生に起きた奇跡を描き、多くの視聴者の涙を誘った。高校生での出会いから社会人として変わっていく2人の関係を描いた「Life 線上の僕ら」も泣けるBL系ドラマとして支持されている。

■「せつなすぎるBL」として話題を集めた「4月の東京は…」

そして、重みのあるストーリーが魅力のドラマが「4月の東京は…」だ。“シリアス”というだけでは片付けられない、トラウマを抱えた主人公たちの人生が描かれている。ほんのりとした癒やしのシーンもなかにはあるが、それでさえ“束の間の幸せ”といった空気が漂い、逆に涙が込み上げてくるほどだ。原作はハルが手掛ける人気BLコミックで、発売された当初「せつなすぎる…!」と号泣する読者が続出し、話題となった。

物語は10年ぶりにアメリカから帰国した滝沢和真(櫻井佑樹)が、新入社員として入社した広告代理店で中学時代の親友であり、初めての相手である石原蓮(高松アロハ)と再会するところから始まる。2人はお互いに初恋の相手、そして初めての相手でありながらも、10年前に起きたある出来事がきっかけで引き裂かれたのだった。再会した彼らは身体だけの関係を持つに留まっていた が、やがて心を通わせるようになっていく。ドラマでは初恋の相手、蓮を一途に思う和真役に「HiGH & LOW THE WORST X」などに出演してきた劇団EXILEの櫻井佑樹。10年前の秘密を抱える蓮役を「FAKE MOTION −卓球の王将‐」などに出演してきたダンス&ボーカルグループ、超特急の高松アロハが演じている。

■つらい過去を背負いながら厳しい“いま”と対峙

ドラマのテイストは基本的には前述したようにシリアスで、ほかの作品に比べてドラマチックなのが特徴的だ。設定からして非常に劇的。和真と蓮は中学生時代に出会い、そこから10年もの間、お互いがお互いを想いあいながらも離れ離れでいたのだ。10年間という年月のうちに和真がコツコツと蓮を捜していたことがわかる瞬間は胸がギュッと痛くなる。一方、蓮はある出来事のために和真と決別して以来、一人で十字架を背負い、自分の親からも見放されてしまっている。そんな蓮の状況は、視聴者を絶望に追い詰めるほどつらく重たいものだった。蓮の胸にはこの上なく深い傷が残り、和真と身体の関係を持てたことすら奇跡だったのだと、視聴者はあとから知ることになり、涙腺崩壊すること必至だ。この登場人物が抱えるトラウマには他作品とは一線を画す過酷さがあるが、それだけに泣けてしまうのだ。

また、2人の行く手を阻むヒールも登場。和真の上司である真田(岡部尚)はかなりの“胸クソキャラクター”だ。和真には、自分が言ったことをいとも簡単に言ってないと翻して罪をなすりつけるパワハラを行う。蓮に対してはセクハラを通り越して、あろうことか犯そうと襲いかかり、その被害者も蓮だけでなく多数におよんでいた。いっそ清々しいほどのクズで、ここまでの悪役はほかのBL系作品では滅多にお目にかかれないんじゃないかというレベル。悪役レベルが高ければ高いほど、2人の障害となってより愛が燃え上がるのはラブストーリーの定石だ。蓮を救おうとする和真の姿は王子様に見え、ここでも涙は禁じ得ない。

さらに真田だけでなく、和真の母親は2人を引き裂く張本人となっている。彼女は単純な悪役ではないが、2人にとっての大きな障害となり、母親の存在が2人の愛を強固なものにし、多面的な視点を与えることに成功している。彼女には母親だからこその愛があり、複雑な思いを視聴者に感じさせてくれることも感動を呼ぶのだ。

■「4月の東京は…」だからこそ得られるカタルシス

紹介してきたように「4月の東京は…」はBL系作品群のなかではシリアス度が高く、かなりドラマチックな作品である。そのために気軽に楽しんで癒やされるタイプのものとは毛色が違うと言えるが、ズッシリとした充足感を味わうことができる。クライマックスでは、他作品では得難い重厚なカタルシスを得ることができるだろう。

そして、11月29日(水)には本作のBlu-ray&DVD-BOXも発売。特典映像では、ビジュアルコメンタリーやメイキング、各種予告編が収録されているほか、封入特典としてブックレットが付属。ぜひ手に取って、「4月の東京は…」の世界に、より深く潜ってみてはいかがだろうか。

文=牧島史佳

※高松アロハの「高」は、正しくは「はしご高」