人類と猿の逆転世界を描いた衝撃作「猿の惑星」シリーズ最新作『猿の惑星/キングダム』(公開中)。2011年にスタートしたリブート版三部作の延長線上にある本作は、高い知能を持った猿たちが人類に代わって支配者となった未来の地球の物語が描かれる。彼らはどのように進化を遂げ生物界の頂点に立ったのか、リブート版をもとにその起源を振り返ってみたい。

■“猿の惑星”誕生を描いたリブート版三部作

「猿の惑星」はフランスの作家ピエール・ブールの同名小説を映画化したSF大作。退化した人類に代わって、高い知能を持った類人猿(チンパンジーやゴリラ、オランウータン)が支配する未来の地球に迷い込んだ宇宙飛行士たちの物語だ。最初の映画化作品『猿の惑星』(68)は全世界で記録的なヒットを飛ばし、全5作で完結する人気シリーズに成長。映画と原作を新たな視点で再構築したティム・バートン監督の『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(01)を経て、2011年には“猿の惑星”誕生を描いたリブート三部作『猿の惑星 創世記(ジェネシス)』、『猿の惑星 新世紀(ライジング)』(14)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17)が公開された。『猿の惑星/キングダム』は、その300年後が舞台になる。

■猿たちが高い知能を持った原因とは?

猿たちが高い知能を持つことになった原因は脳を活性化する新薬だった。製薬企業ジェネシスの神経科学者ウィル(ジェームズ・フランコ)は、損傷した脳細胞を修復するアルツハイマーの治療薬ALT(アルツ)-112を開発。メスのチンパンジー“ブライト・アイズ”に投与したところ高い知能を発揮した。副作用が疑問視され開発は中止に追い込まれたが、ウィルはブライト・アイズが産んだ赤ん坊を密かに自宅に連れ帰りシーザーと名付け飼育することにした。シーザーの脳は遺伝によって受け継いだALT-112の影響で活性化。3歳になる頃には人間の8歳児より高い知能を持つようになった。ウィルと手話で会話していたシーザーは、改良されたALT-113によって言葉を話す力も獲得。ほかの猿たちにもALT-113を与え、彼らの知能を高めていった。それから約300年を経た『キングダム』の時代には、シーザーたちの子孫たちが万物の霊長として君臨することになったのだ。

■猿たちが進化する一方で、人類は衰退の一途をたどる

猿の進化と同様に、人類が衰退していったのもALT-112が原因だ。ウィルがアルツハイマーに苦しむ父チャールズ(ジョン・リスゴー)にALT-112を投薬すると、すぐに効果を発揮。しかし5年後、体内にALT-112の抗体が作られたことでチャールズの認知機能は急速に低下していった。そこでウィルは改良型ALT-113の開発に乗りだすが、免疫力の強い猿はともかく人体にはリスクが高すぎた。実験中に誤ってALT-113を吸引した研究所職員は、致死率の高い感染症“猿インフルエンザ”を発症。瞬く間にパンデミックを引き起こし、社会は崩壊してしまう。

その10年後を描いた『新世紀』では、猿インフルエンザに免疫を持ったわずかな人々が生き延びていることが判明。彼らは各地でコミューンを作り、身を寄せ合って暮らしていた。その2年後を描いた『聖戦記』で人類は、突然の出血と共に言語能力や知能を失う新たな病に直面。その原因は明かされなかったが、声を失っても退化の兆候が見られない者がいるなど、個人差もあるようだ。『キングダム』には“誰よりも賢い”とされる人間の女性が登場する。この世界における人類の生態や人類退化の原因に触れるのかにも注目したい。


■リブート版「猿の惑星」で描かれたシーザーの成長と葛藤

リブート版「猿の惑星」三部作はシーザーの成長の物語だった。母から特別な力を受け継いだシーザーは、自分の居場所を見つけ人間社会から離脱。家族を持ち、指導者として自由を勝ち取り仲間を安住の地に導いた。『創世記』におけるウィルとの決別、『新世紀』でのリーダーとしての苦悩、そして『聖戦記』では自らの心の闇と対峙…と、その繊細な感情表現や存在感に、心を動かされた人も多いだろう。情感豊かにシーザーを演じたのは、パフォーマンスキャプチャを使って「ロード・オブ・ザ・リング」三部作のゴラムや『キング・コング』(05)のコングを演じた個性派俳優アンディ・サーキス。赤ん坊から8歳までを演じた1作目の助演に続き、2、3作目では主演に昇格したのも納得である。サーキスの熱演をデジタルキャラクターに投影した緻密な視覚効果は、上記2作品や『アバター』(09)などでアカデミー視覚効果賞に輝いたWeta FXが手掛けている。

アクション、スリルを満載した一級のエンタテインメントであると同時に、科学の誤用や慢心といった風刺や批判精神も高く評価されてきた「猿の惑星」シリーズ。なかでもパンデミックによる秩序の崩壊、ジェノサイドや報復の連鎖といた要素を孕んだリブート版は、予言書のようなリアリティのある傑出した存在だ。その最新作『猿の惑星/キングダム』ではどんな進化を遂げているのか、スクリーンで見届けてみてほしい。

文/神武団四郎

※Weta FXの「e」と「a」はマクロン付きの「e」と「a」が正式表記