言いたいことがあっても目の前にいる人には伝えられない。だって言わないほうが丸く収まるから。頷いたほうが、物事が円滑に進むから。しかし、その言えなかった想いや言葉はどこに行くのだろう?そんなモヤモヤに形を与えたのが、スタジオコロリド最新作の映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』(Netflix世界独占配信&日本劇場公開中)だ。

山形県を舞台に、夏に雪が降るという不思議な出来事が起こる。周りと上手に過ごしたい、人に嫌われたくないためにいつの間にか頼まれごとを断れなくなってしまった、高校一年生の柊が出会ったのは、母を探して人間の世界までやってきた鬼の少女、ツムギだ。柊はツムギの母探しの旅路を共にすることになるが、その時間が正反対の二人に少しずつ変化を与えていく。

MOVIE WALKER PRESSでは、柴山智隆監督の前作『泣きたい私は猫をかぶる』に続いて出演となった柊役の小野賢章と、ツムギ役の富田美憂にインタビュー!柴山監督の描く世界の魅力や作品のテーマ性まで語ってもらった。

■「柊がツムギと出会って一緒に旅をしていくなかで、成長と変化を感じる物語」(小野)

――本作はオーディションではなく、オファーを受けたとお伺いしました。オファーを受けた時のお気持ちはいかがでしたか?

小野「スタジオコロリドさんとは『泣きたい私は猫をかぶる』でご一緒させていただいて、今回が2度目になります。スタジオコロリドさんには“日常から非日常へ”というテーマがあって、『泣きたい私は猫をかぶる』もそういう世界があってワクワクしましたね。作品全体に流れる雰囲気がとても優しくて、『いい作品に出会えたな』と思っていたので、今回またオファーをいただけてとてもうれしかったです」

――富田さんは初参加になりますね。

富田「そうですね。『ペンギン・ハイウェイ』を劇場で観ていたので、スタジオコロリドさんの作品に出させていただけるうれしさはありつつ、『本当に私で大丈夫なのかな』という気持ちはありました」

――脚本を読まれた時の印象はいかがでしたか?

小野「僕は自分の役に注目しながら読んでいくんですけど、柊がツムギと出会って一緒に旅をしていくなかで距離が近づいていったり、いろんな人と出会っていくなかで視野が広がっていったり、成長と変化を感じる物語だな、という印象を受けました」

富田「私も担当するキャラクターの主観で読ませていただくんですけど、出会った人たち全員に影響をもらって2人が成長していく姿がすごく丁寧に描かれているので、どんな世代の方にも刺さるんじゃないかな」

――柴山監督が描く作品の魅力はどういったところでしょう?

小野「非日常でありつつ、言っていることやテーマは日常に潜んでいることが多くて、それでいてメッセージがわかりやすいところですね。この作品では、本当の気持ちを隠す『小鬼』が出てきて、『小鬼』がたくさん出てくる人間は鬼になっちゃうよ、という設定で子どもでもわかりやすい。しかも子どもは純粋だから、『本当に小鬼が出ちゃうかも!』って思ってくれそうじゃないですか。だから自分が思ったことや、やらなきゃいけないことはしっかりやろう、というメッセージが伝わってくるところは、魅力の一つかなと思います」

富田「監督は柊にすごく共感できるとおっしゃっていました」

小野「監督の学生時代が投影されているみたいなんです。自分が経験したことを活かして、いままさに高校生とか中学生の人たちに伝えたいことを映画に落とし込んでいるのだと思います」

富田「実体験から、共感できる部分を盛り込んでくださっているのもあって、悩みがすごくリアルだなと思いました。私も同じような悩みがありましたし、観てくださる大半の方が共感できるような作品だなとも思います。きっと、観る人によってどのキャラクターに感情移入するかも違ってくるおもしろい作品ですね」

■「かわいがりたくなるような愛嬌がツムギの魅力」(富田)

――ご自身が演じられた役に対する印象や、演じていくなかで変化を感じた部分はありますか?

富田「ツムギは人との距離の詰め方が上手ですよね。一見、馴れ馴れしいかと思いきや、かわいがりたくなるような愛嬌があって、そこはツムギの魅力だなと思います」

小野「お芝居をしてみて気づくことはたくさんあるんですけど、柊で言うと、思っている以上に頑固なところもあるなと。あとは台本を読んだ時の印象とあまり変わりはしなかったんですけど、演じ終わったあとに、『ちょっと大人になったね』ということは感じました」

富田「2人とも一皮むけた感じの成長をしているなって思います」

――柊とツムギ、ご自身はどちらに似ていると思われますか?

小野「これ、2人でも話をしていたんですけど、やっぱり柊寄りだよね」

富田「私たちはそうですね(笑)」

小野「ツムギはわりとガツガツ行くし、思ったことはすぐに口に出してしまうところがあるんですけど、僕は思ったことがあっても自分のなかで消化できれば、実際に口に出すところまではいかないですね。若い時はもっと出していたかもしれないですけど、年齢を重ねてくると、『これは言わなくていいか』ということも増えていきます。そういう意味ではやっぱり柊に共感する部分が多かったですね」

富田「私もどちらかいうと柊タイプなんですけど、ツムギの真っすぐさや素直さはほしいですよね。ツムギのマインドは自分のどこかに持っていたいです」

■「収録の休憩中に、いまの若者はなにがトレンドなのか聞いていました(笑)」(小野)

――キャラクターそれぞれの印象をお聞きしてきたのですが、役にはどのようにアプローチされていったんでしょう?

小野「僕はどの作品でも第一印象を大事にします。オーディションの時にはちょっとしたセリフとキャラクターの設定資料が送られてくるのですが、それを見てオーディションテープを第一印象のままで録っています。それが役と合っていたらそのまま演じますし、現場で違うと言われたらそこから修正すればいいかなと考えています。なので、あんまり悩むこともないんですよね」

富田「私もほとんど同じですね。『この子からはこういう“音”が出るだろうな』という第一印象でいっちゃうことが多くて。どの作品もそうなんですけど、どうして自分をキャスティングしていただいたのかを考えた時に、ツムギの場合はきっと私の声質だろうという気持ちがあったので、作り込みすぎないようにしていました。多分、普段喋っているところも、ツムギと私は近い音でもあるかなと思うので。作品の雰囲気を踏襲しつつ、やりたいようにやらせていただいていたように思います」

――監督から事前に「こういうふうに演じてほしい」といった演出はあったんでしょうか。

小野「今回はオファーしていただいたのもあって、イメージ通りだったのか、すんなりいった感じはありました」

富田「私もです」

小野「どちらかというと、どういうふうに演じるかよりは、世界観とキャラクターの説明に時間をかけてやっていましたね。あ、でも若い声は作っています(笑)」

富田「ははは!」

小野「今回に関してはそこだけは作り込んでやっています。20歳年下とかになってしまうのでがんばりました(笑)」

――年齢を重ねるにつれて10代を演じる時の作り方は変わってくるんですか?

小野「あまり変わらないかもしれないですね。いろんなものに対して敏感だったり、過剰に反応してしまったり意識してしまうところは、変わらないです。ただ、声の高さだけはキープできるように頑張っています(笑)。気持ちはなるべく若さを保っていたい、というのは普段からあるので。それこそ、収録の休憩中とかに、いまの若者はなにがトレンドなのか聞いていました(笑)。僕の学生時代と、富田ちゃんの学生時代の違いはなんなのか聞き出せたらいいなと思いながら、わりと質問攻めしていました。でもだいたい犬の話で盛り上がっていたね」

富田「私がワンちゃん飼っているので、その話ばかりしていましたね(笑)」

■「最近になって『人との距離こんなに近かったんだ!』とびっくりしています」(富田)

――大切な人に想いや気持ちを伝えることが作品全体のテーマではあるかと思うのですが、お二人は普段、気持ちを伝えるうえで大事にされていることはありますか?

富田「ちゃんと目を見ることです。あまり見ることができないタイプなんですけど、最近はがんばって見ています」

――目を見ると緊張する?

富田「そうですね。気恥ずかしいみたいな気持ちになるんですよね」

小野「僕は、これを言われてどう思うのかなというのを考えちゃいますね。でも、もともとそんなに話すタイプではないんですけど、コロナ禍に入ってから、より喋らなくなりまして(笑)。みんなで食事に行かなくなったので、喋らないとどんどん会話が下手になっているなというのを感じています」

――いまはだいぶコロナ前の環境も戻ってきていますね。

小野「食事に行く機会も増えてきているので、そのまま楽しく会話していた感覚が取り戻せたらいいな、と思っている最中です(笑)」

富田「アフレコもコロナ禍になって、3人とか4人とか少人数で収録するようになったんですよね。最近は大人数でできるようにはなってきたんですけど、昔は隣の人とギチギチに詰めて座っていたのが、いまはそれもなくなって。できるだけ会話もせずに、距離を保ってお仕事しましょう、という形になっていたから、最近になって『人との距離こんなに近かったんだ!』とびっくりしています」

小野「よくこの距離で目合わせて喋っていたな、って」

富田「そうなんですよ、パーソナルスペースってなかったんだ(笑)」

■「もう少し時間ができるようなったら、自分がやりたいものをやりたい」(小野)

――お仕事でいろんな役を演じるなかで、観てくださる方に気持ちを伝えるのが重要かと思うんですが、収録される時に気をつけてらっしゃることはありますか?

小野「このシーン、この一連の流れでなにを伝えたいのか、というところは気を遣っています。あとは、やっぱり会話なので自分のキャラクターが発したことによって相手が影響を受けるシーンは気を遣いますね。その相手の役を演じる役者さんのことも考えて。自分がドン、としっかり影響を与えるぐらい伝えないと向こうもやりづらいよな、って。相手のことはすごく考えています」

富田「ツムギも柊に自分の気持ちを説明しなきゃいけないシーンがあったので、観てくださっている方にもわかりやすいように説明しなきゃ、という想いはありつつ、そっちに集中しすぎると、当たり前のことなんですけど、気持ちがおろそかになってしまうんですよね。その両立の仕方はすごく考えました」

――最後に、今後チャレンジしたいことを教えてください。

富田「デビューしたてのころは学生を演じる機会がすごく多くって。それを等身で演じられるのは若いころならではだと思いつつ、最近はメインキャラクターのなかでもちょっとお姉さん的なポジションとか、成人しているキャラクターをありがたいことに任せていただく機会が増えてきたんです。自分の声と芝居が年齢に追いついてきたじゃないですけど、芝居も少し大人になってきているのかな。もっと磨きをかけて、より幅を広げられたらなと思います。

小野「僕は役に関してだと、人以外のキャラクターとか(笑)」

富田「難しいですからね(笑)」

小野「あとはもう少し時間ができるようになったら、朗読とか、自分がやりたいものもやりたいですね。一昨年、西本願寺でやったんですけど、すごくいい経験だったので、またやれたらなと思っています」

取材・文/ふくだりょうこ