ドラマ「ウォーキング・デッド」のダリル役を15年間にわたって演じ、いまはそのスピンオフドラマ「ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン」(U-NEXTでシーズン1が配信中)に主演するノーマン・リーダスが、大阪コミコン参加のために来日。このスピンオフについて、ダリルという人物について、たっぷり語ってくれた。

■「ダリルの物語をヨーロッパのドラマとして描きたかった」
リーダスといえば、近年は小島秀夫のゲーム「デス・ストランディング」の主人公役でも話題を集め、今後も『デューン 砂の惑星PART2』(24)のオースティン・バトラー主演の映画『The Bikeriders』、「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフ『Ballerina』に出演、そして『ジョン・ウィック』の製作プロダクション、87イレヴンと組んで彼とショーン・パトリック・フラナリーが兄弟役を演じる人気シリーズ『処刑人』の第3弾も製作決定している。

そんな話題作が続くリーダスだが、代表作といえば、やはり彼がシーズン1から出演し、シーズン11まで続いた長寿人気シリーズ「ウォーキング・デッド」。彼が演じるダリルが主人公のスピンオフ「ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン」では、主演だけでなく、製作総指揮にも参加。ストーリーや脚本はもちろん、キャスティングやロケハンにも参加して、数ヶ月にわたって準備をした。

「そもそもドラマのショーランナーにデヴィッド・ザベルを選んだのも僕なんです。なぜなら、新鮮なアイデアを持っていたから。このドラマの舞台をフランスにするというのも彼のアイデア。僕らは、アメリカのドラマをフランスで撮影するんじゃなくて、ダリルの物語をフランスやヨーロッパのドラマとして描こうと考えたのです」。

そのザベルは、これまで「ER 緊急救命室」の制作総指揮や脚本、ドラマ「マンション・ハウス・ホスピタル」のクリエイターで脚本も手がけた人物。ホラージャンルではなく、人間ドラマを描いてきた経歴の持ち主だ。リーダスがそんなザベルと組んで、自身が演じてきたダリルという人物をより深く描くのがスピンオフドラマ「ウォーキング・デッド:ダリル・ディクソン」。というのも、ダリルは、いわばリーダスが創造してきた人物なのだ。ダリルは原作には登場しないキャラクターで、最初の設定もいまとは違っていた。

「最初、ダリルは、乱暴者の兄メルル(マイケル・ルーカー)の弟、というだけのキャタクターでした。兄と同じように人種差別主義者で、ドラッグはするし、盗みもする人物。それを僕が脚本家と相談して変えていったんです。実はダリルは、兄のようになりたくないと思っていて、兄がいなくなって初めて、大人になるチャンスを手に入れる人物だとしたらどうだろう、と考えました。メルル役のマイケルが、数話でいなくなることは決まっていたからね。
だから、ダリルは少しずつ変わっていくんです。最初の数シーズンでは、ダリルにはいままで自分がやってきたことを恥じているという感覚があります。だから、みんなが自分のことを嫌っていると思ってるし、それで自分もみんなを嫌っているかのように振る舞う。でも、いろんな体験を経て、相手の目を見て話すことができる人間に変わっていくんです」。

■「ダリルは戦うことで強くなってきた人物だということがわかるんです」
スピンオフドラマでは、ダリルの祖父がどんな人物だったのか、彼が幼いころの家庭がどんな状況だったのかが語られ、彼の新たな側面も見えてくる。

「ダリルが祖父の話や、家族の話をすることで、彼が家族をどんどん失って、生きるために戦わなければならず、戦うことで強くなってきた人物だということがわかるんです」。

また、ダリルは、一見、無愛想だが、なぜか子どもたちとはすぐ仲良しになる。「ウォーキング・デッド」でも主人公リックの幼い娘ジュディス(ケイリー・フレミング)や、"囁く者"のリーダー、アルファの娘リディア(キャサディ・マクリンシー)と親しくなり、スピンオフでもローラン少年(ルイ・ピュエシュ・シグリウッツ)に慕われる。リーダスはその理由をこう語る。

「それは、ダリルが正直だから。ダリルには、人の目を気にして行動するという意識がないし、なにかのフリをすることもありません。発言の際には、彼が本当にそう思っていることを言うし、そこが、子どもと同じなんです。まあ、現実の子どもは違うかもしれないけど、このドラマに出てくる子どもたちはね(笑)。だから、子どもたちは無意識のうちに、ダリルは自分と同類だと思って、接近してくるんです」。

そうした子役たちとの演技に、彼自身が子育ての経験があることは、役になっているのだろうか。彼にはかつて交際していたモデルのヘレナ・クリステンセンとの間に24歳の息子ミンガスがいて、婚約者の女優ダイアン・クルーガーとの間に5歳の娘ノヴァがいる。

「それは僕にはわからないですね。子どもたちはニューヨーカーだし、僕には子育ての技術はまったくないですし(笑)」


■「リックとダリルの絆の強さには、アンディと僕の友情が反映されている」
ダリルといえば、男性キャラクターとのバディぶりも魅力。生存者たちを率いるリーダーのリックとは互いに強い信頼関係で結ばれていた。兄メルルには、虐待もされていたが、生死の境を彷徨った時には兄の幻影の罵詈雑言で励まされ、ウォーカーと化した兄を倒さなくてはならなかった時には、大声をあげて泣く。ダリルは、男性キャラとペアになるのが似合うのではないか。そう尋ねると、まず「ボーイフレンドってこと?」とジョークっぽく言ってから、リック役のアンドリュー・リンカーンとは特別な関係だったことを熱弁してくれた。

「リックとダリルの絆の強さには、アンディと僕の友情が反映されていると思います。撮影現場でも話すし、トレーラでも話すし、ランチでも話すし、共演シーンがない日は『今日はどうだった?』という電話がくる。一緒にドライブしたり、お互いの家にも行ったり、まるで家族のような関係なんです」。

そんな関係だったからだろう、「ウォーキング・デッド」全シーズンとスピンオフを通して、もっとも好きなシーンを尋ねると、彼が挙げたのはリックとのシーンだ。まず、シーズン4の第16話「終着駅」でのシーン。リックが息子助けるために無法者を殺したあと、リックが放心状態で地面に腰を下ろし、自動車に寄りかかっていると、ダリルがやってきて隣に腰を下ろし、自分が無法者に接近したせいだとリックに謝罪する。

「するとリックがそれを否定して、『お前は僕の兄弟だ』と言う。僕が一番好きなのは、あのシーンです」。

そして、もう一つは、リックのシリーズ出演最終話となるシーズン9の第5話「清算」。橋の上で、リックが一人で、ウォーカーの大群が集落に侵入するのを防ごうとしているシーン。

「それを見た仲間たちが全員、リックを助けようと彼のほうに走っていく。脚本ではダリルもみんなと一緒に走ることになっていたけど、僕の意見で、ダリルの行動は変更になりました。ダリルだけがそこに留まって、クロスボウで、リックに接近するウォーカーたちを倒していく。離れた場所から、リックと一緒に戦うあの場面も大好きです」。

■「メリッサは最初からこのスピンオフに深く関わっている」
こうしてリックとの強い絆で結ばれているリーダスだが、もう一人、信頼し合っているのがキャロル(メリッサ・マクブライド)。スピンオフシリーズのシーズン2は、タイトルが「The Walking Dead:Book of Carol」になり、キャロルとダリルの関係がより描かれていく。

「メリッサは、最初からこのドラマに深く関わっていました。シーズン1にはあまり登場せず、シーズン2から比重が大きくなることは、最初から決まっていたんです。メリッサとも、アンディと同じような関係です。もう15年以上も、とても親しい関係だったから。シーズン2では、キャロルとダリルの絆がどんなに深いのかがわかります」。

こうして、ドラマやダリルについて、真摯に語ってくれたリーダスだが、取材後には、彼の素顔が垣間見られる場面もあった。撮影では、カメラに向かっておどけたポーズをしてカメラマンを笑わせ、それから編集者の折り畳み式スマホに目を止めて「触っていい?」と手に取って、待受画像が映画『シンプルメン』のエレナ・レーヴェンソンが踊っているシーンなのを見ると、「彼女とは共演したことがあるよ」と言い、次の取材場所に向かって移動しながらも振り向いて「そうだ、あの映画は『ハード・デイズ』だ!ブロンディのデボラ・ハリーも出演してたよ」と大声で教えてくれた。リーダス本人の素顔は、ダリルよりも、かなりお茶目で気さくなようだ。

取材・文/平沢薫