『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)で衝撃的なデビューを飾った最強の戦士フュリオサの“原点”を描く、ジョージ・ミラー監督作『マッドマックス:フュリオサ』がいよいよ5月31日(金)より公開される。バイオレンスなカーアクション満載で、世界中のクリエーターに影響を与え続けてきた「マッドマックス」シリーズ。その最新作公開を記念して、SFカーアクション『REDLINE』(09)や「ルパン三世」の劇場版「LUPIN THE IIIRD」シリーズの小池健監督が本作のため描き下ろしイラストを作成。さらに最新作の見どころから「マッドマックス」シリーズの魅力まで語ってくれた。

世界崩壊から45年。貴重な資源にあふれた平穏な“緑の地”からバイカー軍団に連れ去られ、家族や人生すべてを奪われたフュリオサ(アニャ・テイラー=ジョイ)。母を殺したディメンタス将軍(クリス・ヘムズワース)に復讐を誓った彼女は、走る要塞“ウォー・タンク”を駆り、怒りに燃えて荒涼とした大地を突き進む。

■「ド迫力のアクションが外せないのはもちろんですが、人間ドラマの魅力もしっかり伝わってきたので、すごく満足」

ひと足先に試写で本作を観て「フュリオサの生い立ちをアクション満載でたっぷり味わえて大満足です!」と興奮を隠せない小池監督。シリーズの大ファンである小池監督は、アクションはもちろん本作のドラマ面にも注目していたという。「ド迫力のアクションが外せないのはもちろんですが、これまでのシリーズも正義感や絶望、希望など様々な要素がストーリーにしっかり盛り込まれていたので、その部分も気になっていたポイントです。結果、人間ドラマの魅力もしっかり伝わってきたので、すごく満足しています」。

車体を激しくぶつけ合ったり相手の車に飛び乗ったり、上空から攻撃を仕掛けるなど、カーチェイスの概念をくつがえす多彩なアクションで熱狂的ファンを生みだしてきた本シリーズ。小池監督は、さらに進化を遂げたカーアクションにも魅了されたという。「ノンストップで飽きさせないだけでなく、パラシュートを使ったアクションや足を使ったフットスケート、ウォー・タンクの後部に吊られた鉄球をグルグル回して敵をなぎ倒すなどそのアイデアも楽しめました。一つ一つの要素がわかりやすいだけでなく、リアリティを感じさせるカットの組み立て方は、さすがミラー監督ですね」。

そんな小池監督が特に印象に残ったシーンにあげたのは、フュリオサの“左腕”のエピソードだった。左腕が義手の凄腕ドライバーとして『怒りのデス・ロード』に登場したフュリオサ。その生い立ちを描く本作では、彼女が片腕を失った壮絶な過去が明かされる。「フュリオサが左腕を失くすくだりが特に衝撃的でした。激しいアクションのなかで、傷つき片腕になってしまう流れはビジュアルを含めインパクト抜群。しかもドラマチックに描かれていて、自分のなかですごく残っています」。

■「アニャさんとシャーリーズ・セロンさんのシンクロ率が高い、凛とした佇まいがそっくり」

『怒りのデス・ロード』のプリクエルと位置づけられた本作は、フュリオサ誕生の物語。小池監督は主演に抜擢されたアニャ・テイラー=ジョイの“フュリオサぶり”を称賛した。「アニャさんと、前作のシャーリーズ・セロンさんのシンクロ率が高いんです。それは見た目が近いというよりも、コアにある信念の部分。凛とした佇まいがそっくりで、そこは驚かされました」。

本作には新キャラクターが続々と登場するが、なかでもクリス・ヘムズワースが圧倒的な存在感で演じたフュリオサの宿敵ディメンタスがお気に入りだという。「見た目が強そうで、やってることもダークなマインド全開のキャラクターではありますが、ユーモラスな一面もあって憎みきれない存在ですね。スピンオフがあってもよいくらい、魅力的なキャラクターになっていました」。

本作に魅せられたという小池監督が描いたのは、力強い瞳が印象的な躍動感あふれるフュリオサの姿。宿敵ディメンタスとフュリオサを結ぶテディベア、左上にはクライマックスで彼女が乗るクランキー・ブラックと、映画の世界が1枚に凝縮されている。「アニャさんの目力の強さを活かせる表情や、義手は外せないので手前のほうに入れ込みながら彼女の軽やかなアクションを絵にどう落とし込むかを考えながら描きました。フュリオサが着ているのは、『マッドマックス』のアイコンというべきダブルのライダーズジャケット。キャラクターではディメンタスと、『怒りのデス・ロード』に続いて登場したウォーボーイズもインパクトがあったので2人がジャンプするスタントを入れ込んで、全体のバランスをとりました」。

■「足し算ではなく引き算で見せていく、その描写がすごく刺激的でした」

『アニマトリックス』(03)や「アフロサムライ」のパイロットフイルムなど海外作品でも活躍している小池監督。映像クリエーター目線で本作を観た印象を訊ねると、「アートのように美しい映像」という答えが返ってきた。「アクションのインパクトもすごいんですが、同時に優雅さも感じさせてくれました。空と大地と爆発シーンの組み合わせとか、メタリックなシルバーなど色彩を絞り込んで見せたい被写体をしっかり画面に入れ込む潔さはかっこよかったです。作品をつくる時はつい多くの要素を詰め込みがちになりますが、足し算ではなく引き算で見せていく、その描写がすごく刺激的でした」。

同じ映画人として、ジョージ・ミラーという監督は小池監督にとってどんな存在なのだろうか。「ひと言で言えば、偉大な映画監督。『マッドマックス』シリーズが代表作だと思っていますが、カーチェイスなどダイナミックなビジュアルの作り方はもちろん、テーマの織り込み方が気持ちいい。くさい言い方をすれば、正義と愛、その反対にある憎しみや復讐心、絶望感など、様々な感情がシンプルなストーリーにしっかり落とし込まれています。伝えたいメッセージをエンタテインメントとしてまとめる手腕はすばらしいし、そういう作品が撮れる監督になりたいですね」。

小池監督が初めて「マッドマックス」を知ったのは小学生の時に目にした第1作のポスターだった。「通学路に貼られていた映画館のポスターで、黒いインターセプターとアビエイターのサングラスをかけたマックスを組み合わせた絵柄を見て、ワイルドな映画が来るなと思ったのが最初です」と振り返る。その後、ビデオで『マッドマックス』(79)、そして世界観を一新した『マッドマックス2』(81)を観て夢中になったという。

宇宙最速をかけたカーレースを描いた痛快作『REDLINE』や『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』(14)など、多くの小池監督作にはダイナミックなカーアクションが盛り込まれている。そこには「マッドマックス」シリーズの影響が見てとれる。「人間の感情を代弁するツールとしてのカーアクションが大好きで、好んで使うことが多いんです。感情がむき出しになった時、生身だったらば殴り合いになるところを、カーアクションではハンドルの握り方や、路面への衝撃具合などで表現します。マシンを使ったフィジカルな表現が大好きで、そこには『マッドマックス』の影響が強くあると感じています」。

ミラー監督が「映像のロックンロール」と表現する「マッドマックス」シリーズ。激しいアクションや壮大なロケーションなど、最新作もスクリーンと大音響で体感すべき作品に仕上がった。「体験型ジェットコースタームービーなので、初めて会う大勢の人たちと一緒に感動を共有できることがなにより楽しいと思います。スクリーンや音響面もそうですが、ぜひ映画館という空間で味わってほしい作品ですね」。

取材・文/神武団四郎